骸骨は着飾る

「お迎えに参りました」


下の階に降りると、すでにクロムが待っていた。


「あぁ。待たせた」


俺は軽く挨拶をし、クロムに連れられる。

宿の前には黒塗りに、金の装飾が施された、なんとも豪華な馬車があった。


「さぁ、どうぞお入りください」


クロムが馬車のドアをあけ、俺たちは中に入る。クロムは御者らしく、この馬車に乗っているのは俺とハルカの2人だけだった。

恐らく家紋か何かなのだろうが、馬車の側面には、龍に鎖が巻きついているようなものが彫ってある。街の人々はそれを見るとそれぞれが道を開ける。

クロムがすごいのか、馬車がすごいのかわからないが、走行中の揺れすらも感じない。


「到着致しました」


少しの間待っていると、すぐに目的地についたようだ。目の前には大きな門が、音を立てながら開いていくところが見える。もう少し先にはなんとも大きな豪邸が。

ここにつくまで、俺とハルカは何一つ言葉を交わしていなかった。

ハルカは俺についてくると言ってくれたが、どうやら覚悟はまだできていないらしく、体を小さく震わせ、俯いている。


「安心しろ。私がいる」


俺は優しくハルカの肩を抱き寄せ、頭を撫でた。


「それでは、ご案内いたします」


クロムがドアを開き、俺たちは馬車から降り、クロムに着いてき、屋敷へと入る。


「それでは、私はレヴィア様のお手伝いがりますので、これで。何かあればこのメイドへ言ってください」


クロムはそういい頭を下げると、奥へと引っ込んでいった。クロムの残していったメイドは俺たちに軽く礼をし、部屋へ案内する。


「それでは、こちらのお部屋にてお召し物を着替えてください」


俺たちが通された部屋は、宿の部屋を6つほど繋げたぐらいの広さだった。その広い部屋には、暖炉や本、ソファーに絵画、これまた豪華で高価そうなものがたくさんあった。

中でも目を引くのは、その部屋の半分ほどを占領しているとも言える、衣服の類だ。ドレスとタキシード、何百種類はあると言えた


「この服を?」


「はい。レヴィア様より言伝を預かっています。『私に会うのだから、それ相応の格好をしなさい。服は用意した』以上です」


「ふむ。そうか」


俺の今着ている服は、ローブのみだ。下に着る必要もないしな。強いて言うなら、胃袋を装着している。

ハルカはまだ上等なほうで、先ほど購入した黄色い花柄のワンピースを着ていた


俺はハルカに、レヴィアに言われた言伝を伝え、服を選ぶよう言った。ハルカは複雑な気持ちでドレスを見ているようだ。


俺は俺でタキシードを見ているが、やはり、青色のものに目をひかれてしまう。

水色に、薄い青の縦の線が入ったタキシード……良いな……


(着方が……わからない)


そうなのだ。俺は産まれてこの方、衣服を身につけたことがないのだ。

タキシードの上に袖を通すことはできるだろう。だがこのズボンというもの。足を入れるところまではわかる。が、この長い紐のようなものをどうするかわからない。

試しに足を入れてみるが、すぐにずり落ちてしまう。


(ズボンは肉がないと着れないのでは……?)


俺は自分の腰回りを見る。骨盤しかない……驚異のウエストと言えるだろう。


「ムルト様は骨ですもんね。どういたしましょう……」


「あぁ。どうやら俺に合う服はなさそうだ。

……ハルカはその服にするのか?」


ハルカが着ているのは、先ほど買った、なんとも青と黒のグラデーションが美しいワンピースだった。絹のような上等な素材でできているから、ドレスのようにも見える。そしてアクセントとして胸元には月のペンダント。しかも、さらにすごいのは化粧だ。頰が微かにピンク色に染められ、唇が真っ赤だった。目も黒く大きく、吸い込まれるようだ


「美しい……」


「へっ」


「ハルカ……なんという美貌だ。触れても……いいか?」


俺は無意識に手を伸ばし、ハルカの頰に触れそうになっていた。俺は改めてハルカに許可をもらい。その体へ触れる。今の俺は全身に身につけていたものを脱いでいるので、手は骨を剥き出しだ。


「んっ……」


ハルカは色っぽい声を微かに出す。骨が冷たかったのだろう。ピンク色に染められた頬はさらに赤くなっていた。


「あぁ、すまないな。見惚れてしまった」


「い、いえ、ムルト様が満足してくださるなら……」


俺は気を取りなおし、ハルカと共にタキシードを選び、服の着方を教えてもらった。

白いシャツはそのまま着て、ズボンは、手持ちの荷物や、ハルカのアイテムボックスに入れてもらっていた袋などを出し、骨盤に巻いた。そして太くした骨盤にズボンを履き、ベルトという紐を巻くと、ずり落ちず、綺麗に着ることができた。


「おぉ。ありがとう。ハルカ」


「いえ。ムルト様、とてもお似合いです」


俺は備え付けられている姿見を見る。

青い骸骨が青タキシードを着ている。白いシャツには青い月のペンダントが輝いていた


「お二人とも、とてもお似合いです。それでは、レヴィア様の元へ案内致しますね」


「あぁ。頼む。」


俺はそう言って、側に置いていた月光剣を携えようとしたが、


「申し訳ありませんが、武器類はこちらのお部屋へ置いておいてください」


「ふむ……すまないが、この剣は私と一心同体だ。遠くへ放置はできない」


俺は食い下がった。風呂に入る時も、手放しはするが、必ず手の届く範囲においていた。

この剣は、俺が強くなるきっかけをくれたし、なにより、アルテミス様が授けてくれたものだ。


「剣を抜き、いきなりレヴィアを襲わないと固く約束しよう。月に誓う」


「で、ですが……」


俺も彼女も引くことができず、少々言い争う感じになってしまったが、突然部屋のドアが開き、知らない人物が入ってくる。

白いタキシードに浅黒い肌が似合っている。

美形の男が部屋にいる俺たちを見渡してくる。


「いかがなさいましたか?」


「く、クロム様。」


「何か問題が?」


白タキシードの男はクロムと呼ばれた。

今はいつものボロ布ではなく、美しいタキシードを着て、佇まいもしっかりしたものだ。


「そ、それが、お客様が断固帯剣するとおっしゃって……」


「レヴィア様はお客様に如何するよう伝えられた?」


「……お客様の自由に、と」


「屋敷で暴れても?」


「気にしない」


「レヴィア様に飛びかかったら?」


「屋敷を捨て、逃げる」


「わかっているじゃないか。ムルト様。メイドが大変失礼をいたしました。剣はお持ちになってくれて構いません。それとレヴィア様から伝言です。『今日お前らが選んだその服はそのままやる』だそうです。見た所、そちらのお嬢さんはこの部屋にあったものではないようですが?」


「あぁ。ハルカは自前の服だが、ダメか?」


「いえ。美しさの中にも品があり、大変よろしいかと。よければ、好きなドレスを1着選んで、それをもらってしまっても構いません」


「は、はい」


「ハルカ。選ぶといい」


俺は知っている。ハルカがワンピースを着る前に散々見ていたドレスを。それは真っ黄色のドレスだ。後で聞いたことなのだが、ハルカが住んでいた世界の物語に出てくる姫が着ている物に似ていた。と

その姫は野獣のような男を好きになり、一緒に幸せになるという。なんとも面白そうな話らしい


俺たちはその部屋を後にし、ちょうどクロムが来たということで、メイドに代わり、クロムが俺たちをレヴィアが待っている場所へ案内される。


「この中でレヴィア様がお待ちしております。本日は招待で、友好を深めることが目的です。先日あったことは持ち出さぬようお願いします」


クロムが部屋に入る前に俺たちにそう言ってくる。俺もあの戦いはもう終わったものだとは思っているが、俺の中の怒りは収まったわけではない。なによりレヴィアはまだ本気を出していなかったと思う。勝ちを譲られたのだ。


俺たちはドアを開き、その部屋の中へ入る。

目の前にはテーブルの上に豪華な料理がいっぱい置かれていた。イスが三脚置いてあり、その一つには、すでに一人座っていた。

銀髪の髪に紫の瞳をした龍の少女、レヴィアだ


「ようこそ、私の家へ。さぁ、そこへ座って」

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