骸骨は乱入する
その後、コットンは苦笑いしながら生殖の方法を教えてくれた。
面白かった。
俺たちは休憩所を後にし、コットンが魔都の案内をしてくれた。
モンスターの俺が知らない魔族の暮らしや歴史、政治など、コットンはとても物知りで、説明もうまかった。
驚いたのはコットンの冒険者ランク。なんとランクBだという
「大熊犬を狩れるなら、お前もすぐBに上がれるだろう」
と言われたが、正直あげる気はあまりない。
ランクが上がれば強制依頼や緊急依頼を受けなければいけなくなるからだ。
ポイズンスコルピオンのように苦戦し、ローブが脱げてしまったら、すぐに討伐対象になってしまうだろう。
「魔核がなければモンスター認定されてしまうからな。骨人族とスケルトンの違いは魔核だけだ」
笑いながら言っていたが、その声はとても心配しているような声だった。本当に優しい。
「む、あれはなんだ?」
すごい人だかり骸骨はできていて、皆、石を購入し投げているようだった。的当ての催しでもあるのだろうか。
「あれは……奴隷への投石だな」
人だかりに近づき、それを見た。
少女が壁にもたれかかるように背中を預け、虚ろな目でぼんやりとしている。手足を鎖で繋がれ、人々は、引かれた線の後ろから少女めがけて石を投げていた。
少女は全身を鮮血に染め、体のいたるところが凹んでいるようだった。
「なぜ、あんなことをするのだ……」
「あの娘は黒髪黒目だろう?あれは召喚された勇者と同じ容姿らしくてな、それでだろう」
「なぜ見た目が同じなだけでこんな酷いことをされねばならぬのだ」
「かつての勇者は、魔族をモンスターの一部としてみていてな。かつての魔王から国民まで、そのほとんどを殺戮したんだ。忌子ってやつだ。人間にもいるだろう?紫の髪に紫の目をしていると、魔族とみなされ迫害される」
コットンは別に忌子を嫌っていないらしい。なぜならば、自分たちも忌み子として生まれる異色のスケルトンを、仲間として受け入れているからだという。
同じような目にあっている娘を何度か見たことがあるが、それに投石したことも、それに投石している骨人族も見たことはないという。
「ならば、同じ忌子の俺が助ける」
群衆の中に入ろうとする俺を、コットンが肩を掴み、それを止めた。
「あの奴隷には買い上げられぬような破格の値段がつけられてる。諦めろ。関われば正体がバレるかもしれないぞ」
「それでも構わん!同じ命を持つ者同士、なぜ傷つけられねばならぬ!」
俺は人の波を掻き分け、白線を超え、少女の壁になるように立った。
「なぜこの少女をいたぶる!同じ命を持ち、同じように生きているだけではないか!見た目がかつての怨敵と似ているだけで、この子は本人ではないだろう!この子に罪はない!」
観衆から多くの罵声を浴びせられる。
「そいつは不幸を呼ぶ」
「痛めつけるべきだ」
「生きていてはいけない」
心のない言葉がたくさん聞こえる。
少女はぐったり体を横にし、荒い呼吸をしている
「お客さん、商売の邪魔は困ります」
「少女を痛めつけることが商売だというのか!それでもお前には心があるのか!」
「よく見てくださいよ。
「それがどうした。この少女はその勇者ではないだろう?全くの別人だ。罪のない少女を痛めつけているだけなのだぞ?」
「あなたも魔族ならわかるでしょう?かつての勇者が何をしたか」
「ならばこの少女ではなく、今の勇者にそれをぶつければいいだろう?ここにいる者たちは動けぬ者をいたぶることしかできない腰抜けなのか!」
「不可侵条約がありまして」
「かつての怨敵を討つチャンスがあるのにルールに縛られ、そのチャンスを掴まないのか!やはりただの腰抜けではないか!」
また観衆からの罵声を一身に浴びることになる。コットンは遠くから俺を見守り、静かに首を振っていた。
「ふぅ……立派な営業妨害ですよ?つまみ出してください」
店主らしき男がそういうと、後ろから大きなオーガが出てくる。
手には棍棒を持ち、目は完全に俺を殺そうとしている目だった。
「私は絶対に引かぬ」
俺も腰から剣を抜き放ち、オーガと向き合う。
そこへ、静かな風とともに、一人の人物が降り立ってくる。
「これは、何の騒ぎ?」
大きな白い翼を持った少女が、空から現れたのだ。手足は微かに鱗に覆われ、銀色の髪に紫色の瞳、少女に見えるが、内包する力は計り知れないものがあった。
「こ、これはこれはレヴィア様!な、なぜこのような場所へ?」
観衆や店主が片膝をつき礼をとった。
レヴィアと呼ばれたこの少女、この国と同じ名前だ。この国の王、魔王だろうか
「仕事に疲れちゃってね。散歩してたところよ。ところで何があったの?」
「は、はい。その忌子を皆で痛めつけていたのですが、そこの旅人のような人物がこの子は関係ない、やめろ、と邪魔をし始めましてな。今、つまみ出そうとしていました」
「ふーん」
彼女はゆっくりと歩き、全身を鮮血に染められている少女の元へと歩み寄り、首に長い爪をかけた
「こんなの、さっさと殺せばいいじゃない」
少女の首にあてられた爪がゆっくり動き、鮮血が舞った。
「……なんのつもり?」
俺は咄嗟にレヴィアの腕に剣を突き刺し、少女が殺されるのを阻止したのだ。
対してダメージを負っていないようだが。
「私をこの国の王だと知ってのこと?」
「王でも、なんでも、命は皆平等だ」
「そう」
レヴィアはいつの間にか俺に接近し、その長く鋭い爪で俺の首を切り落とした。
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