骸骨は想う

人狼族は、集落の人間総出で、宴の準備をしてくれた。


「おぉ、今日は良い満月ですな」


ビットが空を見上げながらそう言った。

空に浮かぶ月はいつものように青かった。だが今日は満月の日で、それはそれは見事な丸だった。

雲も浮かんでいない殺風景な空に、一つの彩りを加えるように、それは鎮座し、輝いていた。


「ふむ……美しい」


「ムルトさんもわかりますか」


「ビット殿も」


2人して月を見上げていると、至る所から狼の遠吠えが聞こえてくる。


「狼が近くまで来ているようだな」


俺がそう言いながら辺りを警戒していると、ビットが笑いながら俺に教えてくれた。


「はっはっは、ムルトさん、この遠吠えは私たち人狼族のものですよ。ほら」


ビットはそう言うと魔力を身体から放出し、月を見上げる。すると、耳と尻尾が生え、その身体は青色の体毛に飲み込まれていった。


「どうです?」


「見事なものだ」


「ははは、ありがとうございます」


「人狼族は皆そうなのか?」


「毛並みや色などで個人差はありますが、みな人狼ですので、これ」


ビットが腰につけていた丸くて青い懐中時計のようなものを出してくる。だがそれはチェーンに繋がれてはいるが、時計ではなく、角のないただの丸い何かだった。


「それは?」


「月、に見立てたものですね。我ら人狼族は月と深い関係にありまして、満月を見て魔力を放出すると、人から人狼へと変化するんです」


「コントロールできるものなのか?」


「幼い頃は丸いものを見ると、なってしまうものもいますが、10つ歳をとる頃には大体コントロールできるようになっていますよ」


「ほう。その懐中時計のようなものは月の出ていない昼にも人狼になれるように、か?」


「はい。丸ければ大体大丈夫なのですが、私たちの原点は月なので。この遠吠えは喜びの遠吠えですよ。美しく、我らを照らしてくれる月と、この集落の客人、ムルトさんへのね」


「ふむ。私も月は大好きだ。それに、心優しきそなたら人狼族もな」


「ふふふ、ありがとうございます。ムルトさんのそのネックレスは三日月ですよね。そのペンダントからは不思議と安らぎを覚えます」


「これは月のかけららしい。そのせいだろうな」


「ほぉ!それはそれは、近くでお見せいただいても?」


「構わない」


「ありがとうございます。それでは失礼して。」


ビットはそういい、人の姿に戻ると、優しくペンダントを下から掬い上げ、手のひらでまじまじと見た。


「これは、すごいですね……ものすごく、パワーを感じます……あっ、ありがとうございました」


ビットはそういい、俺にペンダントを返す。


「これは、ある尊敬する方からもらったものでな。この剣よりも大事なのだ」


「その剣からも相当なパワーを感じるのですが……あまり深く聞いてしまうと迷惑でしょうから聞きません」


ビットは笑いながら優しい表情で言う。


「このペンダントと剣は命よりも大切なものなのだ。私が死にゆくとき、共にしたいとも思っている」


「そんなに大事にしてもらえるだなんて、ペンダントを託してくれた方は愛されていますね」


「愛……そうか、これが、愛。愛、か」


「え?なんですって?」


「いや、なんでもない」


俺はペンダントを固く握りしめながら、このペンダントを託してくれたであろう女神を思い出す。美しく気高い、敬愛する我が主を。


その後はジットとニーナも合流し、月見酒と洒落込んでいた。俺は酒を飲めはしなかったが、勧められ頭からかぶっていた。

ちなみにジットは人狼族には珍しい黒色、ニーナも珍しいピンクの体毛をしていた。

ビットの青も、月と同じ色、ということで皆からは憧れの的なのだとか


見事な遠吠えを見せてもらったり、村の人々に骨を食まれながらその日は更けていった。

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