骸骨と人狼

(この目は……歓喜の目っ!)


「骨だー!」


例えるならば、目がハートになっている。というものだろか、若い人狼族が俺の腕に飛びかかりガジガジとしている。


「コラ!客人に失礼ではないか!」


俺を取り囲む人狼族の1人がそう言っているが、その者の目も、今俺の腕をペロペロしている者と同じ目をしていた。すぐに飛びかからないだけ理性があるほうだ。


「ちょっとちょっと!にぃも父様も気が早いです!私が一番最初に見つけたんですから!私が一番じゃないんですか!?」


「ニーナ、そうは言ってもな、まずは客人との会話が先だろう。ジット!離れなさい!」


理性のある人狼族がそう言うと、俺の腕にしがみついてた、ジットと呼ばれた男が悲しそうに離れていく。


「まずは客人よ、せがれの無礼を謝罪する。そしてこのような大勢で来てしまったことも。ただ、敵対する意思を持っていないことだけは理解してくれ、して、娘のニーナから聞いたが、言葉を話せるとか」


「あぁ。言葉を話せる。種族はスケルトン。

先ほどの謝罪だが、攻撃する意図がなければ別に構わない」


「ふむ、感謝する。こんなところで立ち話もなんだ、我が集落へ案内しよう」


「いいのか?俺はモンスターだが」


「構わんよ。わしらも人狼族と言ってな、亜人ではあるが、獣人族と違ってモンスター寄りなんだ」





その後俺はすぐに集落へと案内された。

集落に向かう道すがら、常に人狼族は俺の腕や腹、足などの骨に夢中になっていた。

グルルル、とよだれのようなものを出しながら見られるのは、それはそれで変な気持ちにはなったが、その都度父様と呼ばれた人狼が注意し、移動してる間、骨を食むことはされなかった。


「さぁ、狭いところですがどうぞ」


通されたのは大広間のような場所、座布団のようなものを勧められ、俺はその上に座った。


「まずは初めまして、私はこの集落の族長をやっております、ビットと言います。横のは息子のジット、その隣は娘のニーナです」


ジットとニーナはビットの前だからか、綺麗にお辞儀をしてくる


「私の名前はムルトという。旅をしているスケルトンだ。よろしく頼む」


「よろしくお願いします。ムルトさん。して、娘から聞きましたが、何かお話しがあるとか?」


「大して大事というわけではないのだが、道を、聞きたくてな……」


川に沿って海を目指したものの、今はなぜか離れて集落に来てしまっている。こんな寄り道も悪くはない


「道ですか。ここいら変でいいますと、魔都レヴィアへ?」


「レヴィア、とは?」


「魔王レヴィアが統治している魔族の国ですよ」


俺は気づかないうちに魔族領へ足を踏み入れていたようだ


「そうなのか」


「ムルトさんはポップしたモンスターですか?それとも産まれてきた……?」


「ここから遠く離れたダンジョンでポップした」


「そうですか、なら魔王のことは知りませんよね。勇者のことは?」


「話では聞いたことがある。見目麗しいと」


「私も見たことがないので、見目麗しいかはわかりませんが、魔族の敵、人間の救世主と言われている存在です」


「魔族と人間は争っているのか?」


「いえ、互いに不可侵ということになっていますが、人間側の聖国は人間至上主義でしてね。魔族やモンスター、エルフをも根絶やしにしようとしているそうですよ」


「ふむ。それではそちらへ向かうのはやめたほうが良いだろうな」


「旅をしているんでしたようだったね。それで今はレヴィアに向かっていると」


「本当は川沿いに海へと向かっていたのだが……その魔都というのは気になる。そちらへ向かいたいと思う」


「そうですか。ここからレヴィアへは走って3日。普通に歩いたら5日と言ったところでしょうかね……」


「ふむ。私はアンデッドだから睡眠などはとらなくてもいいんだ。今からでも向かおうと思う。情報、感謝する」


俺が立ち上がろうとすると、ビットが膝立ちになりそれを止めた。


「いやいや!!もうすぐ日が落ちしまうので一泊……いや、しばらく滞在してはいかがですか?」


「それは悪い、あくまでも部外者、ましてやスケルトンだ。すぐに発とうと思う」


「いえいえ!スケルトン!素晴らしいじゃありませんか!」


「そうだぜ!スケルトン!最高だ!」


「スケルトン!骨!好き!」


ビット、ジット、ニーナが身を乗り出して激しく言い始める。その目はさっき見たハート、先ほどかっこよく止めていたビットも、今では飛びつかんと言わんばかりにこちらを凝視する。見ているのは腕だ。


「その……こんなことを言うのもお恥ずかしいのですが、我ら人狼は骨に目がなく……ムルトさんのその強靭で美しい骨に、我らの一族は、その……なんといいますか……」


「飛びかかりたい?」


「お恥ずかしい……」


俺のことを食おうとしているわけではないし、道も教えてくれた。恩には報いるべきだろう。


「道を教えてくれたお礼に、しばらくこの集落へ滞在しようと思う……が、他の方々は大丈夫か?」


「それにつきましては嫌という人狼はいますまい。安心してください」


「ありがとうございます」


その後、集落の皆を集めた前で自己紹介をさせられ、無事、人狼族の集落の皆に歓迎をしてもらえた。


(みんな俺を見る目が……おかしい)


みんな例を漏らさずハートの目をしている。中には舌を垂らしてはぁはぁ言っているものもいる。嫌ではないのだが、こちらが恥ずかしい気持ちになってしまう。

そしてビットは先ほどもう遅いと言っていたが、日はまだまだ落ちる様子がないようだ。


(ふふふ、退屈は、しなそうだな……)


友好的な人狼族、初めての魔族、久しぶりの良い出会いを、大切にしようと、人狼族の笑顔を見て思った。


(ニーナ……みんなの前で腕をかじるのはやめてくれ……)

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