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「カッコ悪いですよね」

 グラスの中身を少しだけ減らしてため息交じりにそう言った。ずっと黙っていたと思ったらそんなこと考えていたの?

「どうしてですか?」

 返してみると男性は苦く笑った。

「だって自分からは誘えなくて、結局あわよくばって思ってここへ来ているのですから」

 まぁ確かにそうだけども。

「一応、あれからヤマギシさんに会うたびに話そう話そうって努力するんですけれど、いつもタイミングが悪くてなかなか。視界に入ることも出来なかったりして」

 ヤマギシさんも仕事が忙しい人だからな。取引先として出入りしていても直接的に接点がないと顔を合わすこともなかなかないものかも知れないけど。

「何度か話しかけることは出来たんですけれど」

「お、そうなんですね」

 最初は挨拶しかしたことがないって言っていたのに、それは大成長じゃないか。

「あっ、でもアレですよ、その天気の話とかそういう・・・あれ、天気と手土産の話しかしてない、かも・・・?」

 お?

「・・・良く考えたら本当に大したこと話せていないかもしれません。今日は天気が良いですね、とか外は溶けるほど暑いですよ、とかそれくらいの」

 まぁ仕事相手の人とは特定の話題がないとなかなか話すこともない、か。

「でも雑談は出来るようになったのであれば以前よりも仲が深まったのではありませんか?」

 ほんのすこーしでも。

「・・・どうでしょう」

 その割には顔が暗い。取引先の人Bから少しも昇格していないのか?

「名前くらいは、もう覚えてもらえたかもしれませんけれど」

「わ、それはす「まぁ一度も呼ばれたことないのでどうかは分からないですけれどね」

 わぁ・・・。

 まぁまてまて。落ち込むのは早すぎる。ただ名前を呼ぶことがないだけかもしれないじゃないか。ちゃんと知っているけどそういう機会がないだけ、とか。

「そうだったら、いいんですけれどね」

「諦めるには早いのでは?」

「諦める気はありません、よ」

 今度はハッキリと言い放つ。

「絶対に顔と名前を覚えてもらいますっ。それから始めて行かないと」

 そう言った瞳は真剣そのもの。その意気があるならきっと大丈夫か。言った事はかなりイージーなことかもしれないけれど、きっとそれが一番大事だから。名前も顔もうまく覚えられない彼女だから、どうか根気よく。俺はここから貴方を応援しますとも。

 

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