幼馴染の山吹さん/第2巻好評発売中!!
道草よもぎ/電撃文庫・電撃の新文芸
幼馴染の山吹さん
第一章 玉砕は始まりを連れて
第一章 玉砕は始まりを連れて 1
ハンス・カロッサ
※
小さい
小学生の
彼女は
教室の前を通りかかったとき、彼女が泣きそうな顔になっているのが目に入った。周りには何人かのクラスの男子。すぐに理解した。
周りの男子がへらへらしているのが見えて、
そのまま飛び出しそうになるのを、そばにいた
こっちはこっちで泣き出しそうになりながら、彼は「やめようよぉ……」と教室の中を指差した。
男子の中にガキ大将がいたのだ。横にも縦にも大きく太った身体を
しかし、
「おとこはおんなにやさしくしなくちゃダメなんだ」
わかったようなことを言いながら、
「こらー! あかりちゃんをいじめるな!」
そうやって
そうすることが、彼女との約束だったからだ。
※
昔はそうやって、いつでも飛び出していったものだ。
だというのに、今の
今の彼女はいじめられているわけではないのだから、当然なのだけれど。むしろ逆だ。好意を寄せられている。
「
とんでもないところに居合わせてしまった。
校舎裏にある大きな桜の木の下、そこに彼らは立っていた。ほかに
どこか
告白をするにはあまり向いていなさそうだが、
彼だって、まさかゴミ捨て帰りの生徒がここに
「
彼は
それもそうだ、告白の真っ最中なのだから。名前は知らないけれど、確か彼は
しかし、この時期に告白とはなかなか手が早い。今はまだ五月で、入学してから一ヶ月しか経っていないというのに。
そんな人が告白する女の子は一体どんな子なのだろう……、そう思って彼女の方を見て、あぁなるほど、と
告白シーンなんて
「えーと……、そう言われても、ね……」
案の定、彼女は困っていた。男子生徒からの愛の告白に全く
確かに彼は格好良い。けれど、彼女にはとても
彼女が立っているその場所。そこだけまるでスポットライトを浴びているかのように、
まず目を
吸い込まれそうなほどに
人形でさえ作るのが難しそうな整った顔立ちだ。その宝石のような目で見つめられたら、
それに加えて
背はそれほど高くないのだが、スカートから
短いスカートと白い
セーラー服を持ち上げる胸は特別大きいわけではないけれど、美しい身体のバランスを作っている。
彼女の名前は、
そして、
「ダメかな?
彼女──
彼女は苦笑を
「ごめんね。わたし今、だれとも付き合うつもりないのよ」
何の気負いもない、さっぱりとした答えだった。気持ちがいいくらいだ。取りつく島がないとはこのことで、彼女は少しも告白を受ける気がないのがはっきりとわかる。
「理由聞いてもいい? もしかしたら、何とかできるかもしれないし……」
どうあってもひっくり返せないだろうに、それでも彼は食い下がった。なまじ女性にモテるからだろうか、簡単には引き下がれないのかもしれない。
「単に恋愛っていうのがよくわかんないだけだよ。好きだとか
そう言って、彼女は小さく笑う。そこだけぱっと花が
「い、いやさ、そういうのって付き合ったらわかったりするもんじゃん? 最初は何とも思っていなかったけど、付き合っているうちに好きになった、とかよくあるケースだし、
「確かにわたしは世界一かわいいけども」
やさしくやんわりと断っていたのに、それに
「そういうのは自分で決めたいの。自分の気持ちで動きたいの。人にあーだこーだ言われたくないし、あなたにも言われたくない。わたしが言えるのは、あなたと付き合う気はない、ただそれだけ!」
結局、
さすがにそこまで言われてしまっては、
「……ん」
……なんとまぁ。
ここ数年、ちゃんとした会話をした覚えのない
「あーあ」
その声につられて、再び彼女の方へ目を向ける。
「まったく。
と、何とも
男たちはそれこそ勇気を
そして
それはどこへいくのだろう。
はぁ、と
「……ん?」
それに気が付いたのは、
「……え」
彼女の口から
「な、なにこれっ。え、なに? なんなのっ」
大量の
『──人の感情の力というのは
……なんだ、この声は。
聞いているだけで不安になってくるような、
桜の木に巻き付いた
そんなものがしゃべるはずないのに、その
「な、なに、この声……、どういうことなのよ、これ……」
そして、それは彼女も。
いつの間にか、桜の木を中心に
外の風景は見えず、この校舎裏だけが世界から
『貴様は、人の感情を集めすぎた。よりによって力の強い感情ばかり。容姿が
意思を持っているかのごとく、その
『わたしは貴様が集めた感情を具現したもの。
「は……? の、
『そうだ。〝青春の
「そんな……っ!」
「み、みんながわたしを好きになって、でもわたしがフッちゃったから、それで
……その通りだ。あんまりだ。勝手に
その
『そうだ。貴様は何も悪くない。悪いというのなら、
受け入れた上で、
その
あぁ、まさか。
あの話が本当だったなんて、と。
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