第18話 巨大小惑星と新兵器
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そして俺は軍学校へ入学し、宇宙軍に入った。
義体化試験に合格し、新型運動エネルギー兵器ランスの搭乗員となった。
この義体化試験には相性があり、人によっては合格どころか死亡する場合もあるという。意識(魂)が肉体から離れない。もしくは、離れた意識が肉体に戻れない。そういったトラブルがそこそこ高い確率で発生する。一般には適性があると認められるものが40%程度いるのだが、その適正者でも2%程度は事故が発生する。適性がないとされたものが実施すれば失敗率は30%以上となるらしい。
失敗を恐れず未知の領域へ挑戦する者、それがランス搭乗員だ。
ランス搭乗員になって2年、出撃はバックアップを含めて20回になった。
俺も一人前、英雄になったわけだ。
その俺に新しい指令が来た。新型機に乗って巨大な小惑星を破砕するのだという。
運動エネルギー兵器ランス。
1万5千トンの長大な機体を秒速500㎞まで加速させるキチガイ兵器だ。
これは主に直径1000m前後の小惑星を砕くように設計されている。500m~1500m程度のものが対象だ。ランスの質量と速度を調節し目標を破砕してきた。500m未満の小惑星は戦艦シキシマに搭載されているレールガンか熱核ミサイルで破壊している。1500m以上のものはどうするのか。それはもちろん問題視されていた。一応、ランスを数基使用して破壊する案が採用されているものの、現実にはそういう小惑星の接近は無かった。
この度確認された小惑星は直径が約15㎞。確実に地球との衝突軌道に乗っているという。通常のランスでは破壊できない巨大な小惑星だった。
俺は司令部に呼ばれた。
この小惑星をどうにかしろって事だろう。何をさせるのか興味津々だった。
会議室に呼ばれた俺は扉を開いて中に入った。広い丸テーブルを囲んで宇宙軍のお偉いさんが数名並んで座っていた。その中央に紀里香さんの父、斉藤珠樹中将がいるのを確認した。まだ50代後半だというのに髪は白くなっている。眉間のしわも深い。
「秋山中尉よく来てくれた。かけたまえ」
俺は指示通りに末席に座る。
「聞いていると思うが、今回確認された小惑星は巨大だ。従来のランスによる攻撃では破砕できない。数基使用しても意味がないことが分かった」
斉藤中将の言葉は重々しい。
「こういう事態が来ることは想定されていた。我々は2種の新兵器を開発している。山本君説明を頼む」
山本と呼ばれた技術将校が立ち上がり話始める。丸顔で小柄な男だ。
「山本頼和技術大佐であります。只今から新兵器の説明をさせていただきます」
上方のパネルに図面が映し出された。まずは大型化したランスです。全長を1.5倍に、質量を2.5倍にしています。更に核融合ブースターを二段に設定し速度を1.8倍、約900㎞/sまで加速します。それでも細かく破砕できるのは直径2500mまでです。4000mまでですと複数の大型の破片となります。その場合は大型の破片を改めて砕く、別の作戦を実施する必要があります。今回の目標はそれを大きく上回る直径15㎞の小惑星となります。この小惑星を細かく破砕するの困難でありますが、複数の破片に砕いて軌道を変え、地球に最接近するものを改めて破砕する作戦を考案しました。概要は以下の通りとなります。
「従来のランスは鋼鉄のケースに砂礫を詰め込んだものを弾芯として使用しておりました。これは主にコスト面からの選択でありますが、従来の質量を持つ小惑星の破砕には十分に機能しております。今回は此処に劣化ウラン弾芯を使用します。概ね20%を劣化ウラン。残りが砂礫となります。劣化ウランの巨大な杭を小惑星に打ち込む形状とご理解下されば結構です。計算上、この劣化ウラン弾芯は約1000m程小惑星内部に侵食します。その時点で後方に備え付けてある熱核爆弾を起爆させます。通常の3F爆弾、いわゆる水爆ですが、この時の衝突エネルギーによる高圧環境により確実な起爆が見込めます。また大量の劣化ウラン弾芯もその30%以上が核分裂反応を起こし、その威力は広島型原子爆弾の約5000倍程度であると見積もられています。この強力な核爆発でも小惑星の全てを破砕できるわけでではありません。複数の破片に分割する事、また軌道を反らす事を目的としております」
「いいんじゃねえか。俺はいくぜ」
俺の一言に斉藤中将は渋い顔をした。山本大佐は話を続ける。
「秋山中尉。一つ未確認事項があるのですよ。至近距離で核爆発を受ける事が霊体にどう影響するのか分っていないのです」
「つまり、霊体がダメージを受けて死ぬかもしれないって話なのか?」
「断定はできないのですが、その可能性を指摘する人がいるという事です」
分らないって事か。
「それしか手が無いのなら俺が行く」
「そう急がないでください。もう一つの実験兵器があるのです。こちらも誠意準備中であります」
また別の図面が表示される。
「これは大口径レーザービームを搭載した駆逐艦と大型の掘削機を搭載した駆逐艦となります。2隻の艦船を1ペアとして運用します」
「宇宙船を掘削機に改造するのか?」
「ええそうです。レーザービームで導線となる穴を掘ります。その後、トンネル工事用のシールドマシンを稼働させます。1000m程の穴を掘ったところで熱核兵器を起爆させ、その反動で軌道を変えます。同時に複数の破片に砕きます」
「そっちの方が確実なんだな」
「確実です。しかし問題があります」
「何だ?」
「工期がかかる事です。最低一週間。確実にするためには二週間は欲しい所です。また現場に到達するためには背後から回り込む必要があります。ここでも直線で到達するランスよりも数日余計に日にちが必要です。それともう一つ問題があります」
山本は俺を見つめる。この問題が深刻なんだと分かる。
「小惑星が自転しているのです。自転速度が遅ければ問題は無いのですが、例の小惑星は毎時2回転ほどなのです。この速度で自転している小惑星上でトンネル工事は難しいのです。できない事は無いのですが……」
なるほど自転か。今までそんなことは気にしたことはなかったが、穴掘りをするなら重大事だろうな。
「分った。俺が行くよ」
その一言で斉藤中将に睨まれた。
「どうして君は簡単に決断できるのかね」
「それが自分の使命だからです。地球には衝突させない。自分が失敗しても必ず誰か賢い人が失敗を克服する方法を考える。山本大佐、そうですよね」
「ああ、必ず考案するよ。失敗しない方法を」
山本大佐が握手を求めてきた。俺は力強く握り返す。
「君の勇気には敬服するよ」
その言葉に俺は大きく頷く。
「秋山中尉。明日の便でシキシマへ発て。成田だ。1200」
「了解しました」
俺は敬礼をした。
どんな奴でも乗りこなす。どんな加速にも耐えてやる。そしてどんな大物でも俺が砕いてみせる。そう決意して部屋を出ていく。斉藤中将の悲し気な視線が胸の中に残っていた。
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