遊星迎撃隊―Starship Breakers

第2話 哨戒行動

　自己紹介を忘れていた。

　オレは機動攻撃軍少尉の三笠和馬（みかさかずま）だ。機動攻撃軍とは、主に人型機動兵器や強化外骨格宇宙服（パワードスーツ）を使って上陸作戦を行う連合宇宙軍の中の一組織だ。衛星軌道上からの降下作戦が主な任務だが、まあ宇宙でも地上でも、どこでも撃ち合い殴り合いをする。今回はバリオン4機で小隊って話だが、個別に出撃するとは聞いてなかった。

　甲板員の指示に従いカタパルトへ接続する。

「三笠、シュガー０２発艦準備完了しました」

シュガーっていうのはバリオン小隊のコードネーム。隊長が佐藤大尉でこいつの隊のコードはいつもシュガーなんだと。こんな駄洒落は洒落てない。

「シュガー０２、発艦どうぞ」

　発艦許可が下りカタパルト脇の信号が赤から青に変わった。

　その瞬間猛烈なＧに潰されそうになる。

　しかし、Ｇがかかるのは一瞬。直ぐに無重力になる。

　視界は開け目の前に大きな月が見えた。

　ここは月の裏側。

　後方にアキツシマが見える。

　全長は200ｍ程、大きな宇宙船だ。

　ここ、ラグランジュ・ポイントに停泊している。

　停泊といっても位置は固定されているわけではない。月と一緒に地球を公転しているだけなのだが、月から見れば一定の位置にとどまっている。重力の関係で軌道が安定する場所だ。

「軌道調整します。プラズマロケット噴射します」

　AIのツバキが報告する。

　減速Ｇがかかる。

「予定軌道に同期しました。索敵モードで待機します」

　ツバキの報告。この機体のAIは自分でアバターを設定できるのだが、オレは名前をツバキにしてメイド服を着せている。丸顔で目が大きい巨乳ちゃんだ。ちなみにシュガー02、オレが乗っている人型機動兵器バリオンだが、今回はＣ装備になっている。Ａが軽装、Ｂが高機動、Ｃが重武装になる。

　これでアキツシマと月の間に重武装の砲台が設置されたことになるわけだ。

　何が意図されていたのかは明白。

　月方向から、何らかの攻撃があると予測されているのだ。

　まったく、オレに惑星探査なんて似合わないって思ってたわけだが、こんな仕事があるならうってつけだ。しかし、どんな利害でこの計画の邪魔をするのか理解に苦しむ。

　さて、俺より数十秒遅れて発艦した斉藤中尉が追い付いて来た。

　彼女はマルチロール戦闘機「雷光」に乗っている。

　新鋭機らしく武装はレーザー砲なのだが、これが大きい。

　レーザー砲にコクピットを乗せ翼をつけたようなデザインだ。

　攻撃用と推進用の動力炉を一体化した画期的な構造らしいのだが、現場では評判が悪い。

　斉藤中尉はオレに接近して翼を振る。

　何事かと思えば短距離レーザー通信を接続してきた。

「はーい。お疲れ」

「まだ始まったばかりですよ。何事ですか。秘匿通信使うなんて、愛の告白ですか？」

　彼女は軍大学の同期で才能も素行も家柄も階級も格闘技の技術も俺より上。しかも容姿端麗の美女だったりする。

「あら、前にも言ったけど、恋愛には興味が無いの」

「オレには興味津々なんでしょ」

「そうね。からかいがいがあるって事で興味津々ね」

まあ、意地悪な姉さんって感じの人だ。何度もからかわれ遊ばれている。

「あーそれならお断りします。興味持たないでください」

「あら、残念。ネタは十分仕込んであるからね。今度ゆっくりした時にいじめてあげるわよ」

「だから結構ですって。パワハラで訴えますよ。ところで中尉、何でこんな重武装で哨戒なんてしてるんですか？」

「そう、その事ね。一応機密事項なんで他言は無用よ」

まあそうだろう。バリオンをC装備でここに置く理由だ。

中尉が話し始めた。