あっちの剣聖とこっちの剣聖は親友です

@karaitokou

第一節 敗者は死に、勝者は生き残る

「……うわあぁあぁあぁ!」


 異世界へ転移し、正装(スーツ)姿の僕は森の木の枝に、背広が引っかかった。鬱蒼とする厳かな感じのする霧や霞のある神々しい森の中だった。


「……?」


 あっちの世界では「剣聖」だった僕は、木の枝を折り、背後に忍びよる気配を察知する。僕は杖を握り、なにかの首に杖を向けると人の姿をしたなにかということがわかった。


「……夜刀神徨(ヤツノカミ コウ)?」


 懐かしい声を聞く。よく見ると着流し姿の少年だった。あっちの世界では、親友だった神来社煌(カライト コウ)だった。


「すっげぇ久々だな!お前も異世界に転移したのか?」


 先程の殺気のある気配を消し、親友は今も変わらず笑顔のまま聞く。


「う……うん、神来社君だとは思わなかったし」


 彼は草履の音を立て、僕へ近づく。そのまま、僕の髪をわしゃわしゃした。


「わ……わわっ?」


「……悪かったな!ここは俺しかいないし、なんか悪いヤツだとすると、懲らしめるって師匠との約束もあったし!……大丈夫?歩けるか?」


 太陽の様な笑顔で彼は僕へ笑う。

 僕は彼の言葉に頷くと彼の手を握り、

 彼の住む「仙人の住居」へ向かうことにしたのだった。


「……まあまあ、楽に!一緒に経緯を話すとするか!」


 仙人……修行を積み千歳である着流し姿の親友は胡座をかくと、優しい笑顔 を僕へ向ける。


「ま、まずは神来社君、お、お願い致します……」


「……はっはっは、楽に楽に!俺はな、俺ツエーになりたいって神様にお願いしたけど、楽に俺ツエーになるな!って一喝され、師匠という仙人と千年の修行を積み、仙人になった……っと、これでいいか?」


「……う、うん、僕は……あっちの剣聖だし、異世界を救うという契約書を無理矢理、書く羽目になっちゃって……って、これで大丈夫……?」


「……大丈夫大丈夫!そっかそっか!仙人である俺の動きを容易く読むってのはなかなか出来ることじゃない!やはり、徨はあっちの世界の「剣聖」だな!はっはっは!」


「お……大袈裟です」


 僕が答えると、神来社君は目を丸くし、僕へ言葉を発する。


「お……大袈裟なのか、徨?実際、山賊やら泥棒やらと戦ったし、わかるけど、仙人である俺の動きを容易く読めたの徨が初回……なのだが?」


「え……ええっ?!そ……なの?僕は単純な行動するなにかとしか……、行動パターンも読めるし、……その……あの……!」


「はっはっは!謙遜するな!仙人である俺を容易く攻略したのは徨だけだ!……っと、仙人である俺は何も食べなくて良いが、徨はいるな?山菜の味噌汁と米と焼魚でもいいか?」


「……う、うん、お、お願い致します……」


 神来社君は僕へニカッと歯を見せ笑うと鼻歌を歌い、厨房へ向かい料理を開始したのだった。


「……よし、腹一杯になったし、次はどしよ?」


 神来社君はニコニコし、僕へ聞く。


「え……ええと、僕、この異世界へ来るの初めてなので、何をどうするかが……」


「だよな……、悪い意味で俺も千歳童貞だし!旅をするか!」


「た……旅……、いい……かも。異世界の内政事情とか、わかると便利なの……で」


 僕が答えると、神来社君はスクッと立ち上がる。そのまま、僕へ屈託のない明るく元気な笑顔を見せ、


「……賛成!いい判断だし、二人で旅をするか!はっはっは!」


 と、大きな声で笑ったのだった。


 異世界である神来社君の住む場所を離れ、森の中を抜けると、ひとつ変な気配を僕は感じる。


「……むっ」


 神来社君も感じるのか、僕の顔をジッと見る。殺気のある嫌な感じの気配を感じ、僕へ相談する。


「……敵の気配的には山賊三十人……か。ただし、雑魚だな。剣の腕前も雑というか……」


「……背後の不意打はダメです」


 僕は杖を背後へ向け、人型のなにかの首へ刺す様に敵を睨む。神来社君も不意打に気づかなかったのか、目を丸くし状況を確認する。


「……まっ、気配を隠しつつ接近するのは得策だけど、不自然に気配が消えるのでオススメは……ナシ?」


「……怖っ、徨って普段は気弱だけど戦いになると雰囲気が変わるな……」


「……くっ」


 山賊は大人しく跪く。だけど、身形がボロボロなのか、服が肌ける。恐らく、首を撥ねるのは容易い。


「……どする?」


 神来社君は僕へ尋ねる。

 僕はフッと笑みを浮かべ、山賊へ向け普段は口にはしないセリフを言う。


「……情状酌量の余地ナシ、あの世へ案内します」


「……やべぇ、徨って戦いになると本当に怪物になるな……」


 僕は容赦無く山賊の首を杖で撥ねる。ゴトリという音と共に首が落ちる。


「……さっさと人目のつく場所まで歩くか!先程の騒動で、山賊は退散したのか、気配は感じなくなったし、大丈夫だと思う!」


 異世界も世の中も甘くはなく、敗者は死に、勝者は生き残る。僕は神来社君の言葉へ頷くと、一緒に人目のつく場所を目指すのであった。

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