24話 仄暗き幕間Ⅱ【事件の考察】
ルイージ・デルモンテの失踪は学校内で起こっていた事が、警察の聞き取り調査で判明しましたわ。当初は学校関係者、つまり先生の犯行が疑われましたが巨漢のルイージが容易く拐わかされるとは思えませんの。
何よりルイージ自身、頻繁に授業を抜け出して倉庫などで昼寝をしていたらしいのでその隙をつかれたのだろう、誰もがそう思うと同時に学校の中だから安全だという訳ではないと悟りました。
ですから学校に行きたくないという生徒が続出していますわ。
「馬鹿ルイージの所為で…だけどあいつが攫われたって事は犯人は噂通りの……」
「いくら何でも…でも本当だったら怖いね」
「それだけじゃあないよ、裏庭に出て攫われた子もいたらしいよ」
「それじゃあ犯人は……」
十件目の行方不明者が出てから二日、捜査は全く進展していませんでしたわ。
地面に泥濘が出来ているので犯人の足跡が見つかると思われていましたが、犯行現場と思われる場所には子供の足跡だけ、それ以外の足跡はどこを探しても見つからずまるで行方不明者が自らの意志で失踪したかのようでした。
それ故になのでしょう。
犯人は化け物ではないか?
そして行方不明になった人達はもう食べられてしまったのではないか?
安全だと思っていた学校や、家の敷地内で起こったという事実が不安や恐怖を駆り立て、
理由はここで真っ先に逃げ出せば、やっと見直されたヴィクトワール家への評価がまた下がるかもしれないからですの。そんな事よりも身の安全と言われましたが、言って来る人は本当に些細な事でも言ってきますわ。
結束党が教育の無償化に反対する理由に、ヴィクトワール家のように裕福な家の子供も対象になるからだと盛んに喧伝している、そんな時に
あとはやはり不安がっているクラスメイトを励ましたいから、こんな状況でも堂々とする人が一人でもいれば、自然と空気は明るくなる、例え強がりだったとしても何もしないよりはマシですわ。
ただやはり不安から休まれている方は多いですわ。
席の半分も埋まっていませんの。
隣のクラスも同じような状況で、新しく体育という科目が追加されたばかりだというのに、体育は中止になりそうですわ。人が足りないんですもの、これでは巷で流行っているというドッジボールは無理ですわね。
授業も休んでいる生徒が多いので自習、つまりやる事がないんですの。
「ねえメル、アルベール君、ちょっといい?」
「ええ問題ありませんわ、暇を持て余している最中ですし」
「うん大丈夫だよ」
「良かった、実はこの地図を見て欲しいの」
「地図?」
レティシアさんはそう言って一枚の地図を机の上に広げました。
そこには…これは事件が起きた場所に印がつけてありますわ。
つまりこの地図は…。
「うん、事件が起きた場所をまとめてみたの。それで何か共通点があればって思ったんだけど……」
「距離も場所も一貫性が無いね、街から離れた場所もあれば街中もある…共通点は何人かが元ヴァレリーの取り巻きだって言う事だけど、無事な子もいるから憶測の域を出ない…ただなんか妙だ」
「うん、だけどそれが分からなくて……」
妙?事件現場と思わしき場所は全てに共通点は少なく、人通りが少ない街から離れた場所で何件か起こっていますが、普通に人通りの多い場所でも起こっていますから、人通りの多少は共通点とは言い難いですわ。
あとは…最初の一件目は昔に作られた社の近く、二件目は史跡の一つになっている枯れ井戸が近くに…待ってくださいまし!三件目も四件目も近くに史跡がありますわ、これは偶然ですの?
犯行現場には共通点がありましたの!
「本当だ、うん確かに…ルイージが行方不明になった倉庫も昔は軍の物資貯蔵庫だった場所だ」
「お家の敷地内でいなくなった子の家の近くにも、うん確か歴史のある鐘楼があった」
「ですが…だからという感じですわね」
それで犯人がどうやって見つからないように人を攫っているのかが分かった訳でありませんもの、結局は共通点の一つが分かっただけの話ですわ、ただこの事は警察の方に知らせた方がいいですわね。
さてさてこうしている間にも時間が過ぎて行っていますわ。
もうすぐ授業が終わりますの、次は体育の予定ですが人数不足でこの授業も自習になりそうですの。
そう思っていると授業の終わりを知らせる鐘が鳴りました。
普段なら一斉に立ち上がって、教室から勢いよく出てお花を摘みにに行ったり違うクラスへ遊びに行ったりしますが、このような状況なので誰も教室から出ようとしませんわ。
ただお花を摘みに行きたい方は、周りに声を掛けて一緒に行こうとされていますの。
やはりルイージの所為ですわ。
被害者なのは分かっていますが、あの男が迂闊な行動を取ったからこのような事態になったのですから、無事に見つかったら必ず制裁を加えますわ。
「皆さん、次の授業の事で連絡事項があります」
ペイネ先生ですわ。
連絡事項、言うまでも無く次も自習ですわね。
「次の授業の体育は隣のクラスと合同で行います」
あらあら、そう言えば隣のクラスも半分以上の生徒がお休みでしたわ。
となるとドッジ―ボールが出来そうですわ!
「ただし授業内容はドッジボールからスポールブールに変更します」
「「ええぇ……」」
「東部の伝統球技を学ぶいい機会ですよ、何より体操着がまだ出来ていないので出来るだけ汚れない内容にしなければならないので、異論も反論も認めません」
せっかくドッジボールが出来ると思いましたのに、周りの方達も不満の声を上げますがペイネ先生はそれを無視するように教室を後にしましたわ。
仕方ありませんの、とにかく今は校庭に移動ですわ。
誰もが溜息をつきながら歩く中、姉様だけは普通に楽しみだという感じですの。
そう言えば姉様はドッジボールの経験がありスポールブールは初めてですわ。
楽しみなのは当たり前ですわね…いえスポールブール自体はとても楽しい球技ですの。
シンプルでありながら奥深く、どこで勝負を仕掛けるかの戦略性など夢中になれる球技ですが、個人的にはやった事の無いドッジボールの方が興味深いですわ。
何より
その中でも特に希少な土の中に宿る精霊と対話する事が出来る魔法、私自身はまだ魔力に目覚めて間もないので手から土の状態とこれは少し特別ですが、触れた土に関わる物体の構造を知る事が出来ますの。
ですから屋外で球技をしたのなら地面がどの様な状態なのか容易に知ることが出来る、それはどこに投げたら良いか?どこに投げたらいけないのか?それを知ることが出来ると言う事なので、スポールブールをしたのなら私が圧倒的に有利ですわ。
一方的に相手を打ち負かす事に私は喜びを感じる性分ではありません。
白熱して競い合う方が好きですわ。
「おーい、そう言えば先生が道具は倉庫にあるから用意しといてくれって」
「それじゃあ俺が行って来る、あと誰か一緒に来て」
「じゃあ私が一緒に行くよ、クロノ君」
「ありがとうレティシア」
さてさて、では待っている間に
お父様のように詳細まで把握出来ませんが、どれくらい湿っているかは分かりますの。
今日の地面の様子は…思っていたよりも湿っていませんの、勢いが弱ければすぐに止まってしまいますし相手の玉に当てる時も勢いを多めに付けないと、思った様に弾けませんわ。
ですが遅いですわね…遅過ぎますわ。
校庭から倉庫までそこまで距離はありませんが、場所はちょうど校舎の陰になっている場所で…嫌な予感がして来ましたわ。
二人で行動しているからと言って必ず安全だという保障はありませんもの、何より先程レティシアさんと一緒に出した結論、古い建物の近くは危険にこの学校の倉庫も当てはまりますの。
この学校の倉庫はかつてワインの貯蔵庫に使われていた、とても古い建物で校舎よりも歴史のある建物ですもの、迂闊でしたわ!
淑女としてはしたないと言われるようが今は関係ありませんの!友人の事が最優先、ここを曲れば倉庫ですわ!
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