25話 仄暗き幕間Ⅲ【迷宮への入り口】
「レティシアさん!クロノ君!クロノ君!?」
「ううぅ……」
倉庫に向かった二人の名前を叫びながら角を曲がると、そこには倉庫の入り口の前で倒れているクロノ君が!誰かに頭を殴られたみたいですわ、それに倒れた拍子に体を擦り剝いていますが…良かった、それ以外に目立った外傷はありませんわ。
「メル!急に走り出してどうしたの!」
「アルベール!してやられました!レティシアさんが攫われましたの!!」
「っ!?」
「え!?嘘!」
「だっ誰か先生呼んで来い!」
「一人で行くなよ!俺も一緒に行く!」
人が隠れているのなら姉様が気配を察知しますもの。
姉様の沈痛な面持ちから、倉庫には誰も居ない事は確かですの。
「クソ!」
「落ち着いてくださいましアルベール、今は怒りに身を任せず状況を冷静に整理しますわよ」
「うん……」
何が起こったのか?
二人は倉庫に体育で使う道具を取りに行った。
前を歩くのは…たぶんクロノ君。
やはり男子ですから人気者のレティシアさんに良い所を見せようとしていた筈ですわ、すると後ろを歩くのはレティシアさん…となると倉庫の扉を開けたのはクロノ君ですの。
そしてクロノ君は昏倒させられ、レティシアさんは攫われた。
この事から分かる事は……。
「犯人は倉庫の中にいた、ですわね」
「うん、となると扉を開けた瞬間にクロノ君は襲われレティシアさんは悲鳴を上げる暇も無く連れ去れた、すると犯人は複数人?」
「いいえ、手際は良いですが単独だと思いますわ。複数人ならクロノ君も連れて行っていますもの、つまり相手にとっても不意な遭遇ですわね」
「これ…レティシアさんの靴だ、片方だけだけど間違いない」
「犯人はこの中に逃げ込んだ、アルベール、この中に人の気配は?」
「無い」
何故ですの?
この倉庫の中に入ったのは隠れる為ではない?
外へ、学校の敷地の外へ逃げる必要のある犯人が何故、再び倉庫の中に?捜査をかく乱させるための偽装工作?いいえ、外には足跡などありませんでたしわ。
つまり犯人は倉庫の中に戻る必要があった。
「まるで分かりませんわ、倉庫の中に潜みそして倉庫の中にレティシアさんを連れ込んだ理由、いいえ今はレティシアさんを追い掛ける事が第一ですわ」
「うん、だけどどうやって追跡したら……っ!そうか、そうだった!」
姉様はそう言うと目を瞑り集中力を高めていき、そして突然レティシアさんの靴を嗅ぎましたわ!?
「何をやってますのアルベール!淑女の靴をにっ匂うなど!」
「そういう趣味とかじゃないよ、ボクの魔法は内向魔法、つまり身体能力の強化だから試しに嗅覚を強化してみた」
「嗅覚を…っ!つまり!」
「うん猟犬の真似事だよ」
すると四つん這いになった姉様は地面に鼻を近付けて、レティシアさんの匂いを追ってどんどん倉庫の奥へと、そしてとある一角で止まりましたわ。そこはちょうど隅になっている場所でした。
そして姉様の動きもそこで止まりましたわ。
つまり匂いはここで途切れていると言う事ですの。
「変だ、ここだこの辺りで匂いが途切れてる」
「近くには…隠れられる場所も怪しい所もありませんわね」
変ですわね。
この一角だけ、所狭しと物が置かれている倉庫の中でこの一角だけが何も置かれていませんの、不自然な程に何も……小説などでよくある展開ですが物は試しですわね。
「アルベール!地面を殴り砕いてしまいなさいな!」
「えええっ!?」
「下に空洞がありますの!それもそこからさらに下には通路もありますわ!」
「っ!ああそう言う事か!そういうカラクリだったのか!!」
姉様も気づいたらしく怒りの表情で地面を殴りました。
そう何故犯行現場の近くに古い建物があったのか?理由は分かりませんが、地下通路が存在していたからですわ!そしてレティシアさんが人影が写っていると言っていた新聞の写真、その人影は地面から出て来る犯人の姿を写し取った物だから!
「ボクが一旦降りてみるからメルは警察の人達にこの事を伝えて」
「だそうですので、皆様方、後はよろしくお願いしますわ!」
「馬鹿な事を言うなメル!」
下へ降りようとする姉様について行くと言ったら、姉様は顔を真っ赤にして怒り出してしまいましたわ、まったく姉様は
足を擦り剝いただけで背中におぶって帰ろうとしたり、
「アルベール、一つ質問がありますわ」
「なに?」
「下は真っ暗闇、どうやって進むおつもりで?」
「それは…直感で……」
「死にますわよ?
「分かった、だけど絶対に手を離したら駄目だよ?もしもメルに何かあったら、ボクは……」
「心得ていますわ」
♦♦♦♦
意外と高さがありましたわ。
どういった仕掛けか分かりませんが、下から何か操作をすれば開く様になっている見たいですの、それと魔力を流して分かりましたが相当に古いですわね、この地下通路は。
魔力という物は不思議な事に長い月日が経過した物程、綺麗に魔力が流れますわ。
下りて最初に構造を把握する為に魔力を流しましたが、古いレンガ?いいえレンガのように成型されていますが、材質は違いますわ。さすがにどんな材質なのかは
「メル、どんな風になってる?」
「幾つか分かれ道がありますわ、ここを真っ直ぐ行く所に左右へ分かれる道がありますの」
「分かった、メル絶対に話しちゃ駄目だよ」
「はい」
姉様の手を握りながら足元の見えない、前を歩く姉様の輪郭すら見えない暗闇を、いいえ闇の中を歩き最初の分かれ道に着きました、姉様はレティシアさんの匂いを頼りに右へと進み途中途中で私が魔法で道を探す、その繰り返しを続けているとふと何やら上から振動音が響いてきましたわ。
「これは…たぶん汽車だ」
「汽車?つまり私達は今……」
「うん、線路の下を歩いてる」
線路の下という事は…私は頭の中の地図を広げて学校の近くにある線路を探し、そこが隣町との境に付近にある線路だと分かりました。つまり私達は思っていたよりもずっと長く歩いていた事になりますわ。
そしてこの地下通路の構造から、相当な規模である事も分かりましたわ。
道理で厳重な捜査網に引っ掛からない訳ですわね、いくら警戒していてもそれは地上だけで地下などという発想は、普通に出て来ませんもの。
「まただ、うんまた線路を越えた…メル、この先にあるのって確か……」
「ええ、ヴォロディーヌ男爵の屋敷ですわ」
「メル、今の内に謝って置く事がある」
「何ですの?」
「この嫌な臭い…間違いない魔物の臭いだ、それも成り損ないの臭いじゃない、あと血の臭いも混じってる」
「っ!?」
魔物…確か姉様がセイラム領の領都に住んでいた頃に姉様の命を狙ってきたという、それに血の臭い…嫌な事が脳裏を過りましたわ、噂通りの人食いの化け物が犯人…いいえさすがにそれは無理がありますわ。
それだったらクロノ君が連れ去られなかったのも、目立った外傷が少なかった事にも説明が付きませんわ。
とにかく今は前へと進む事ですわ。
「明かりですわ、私が魔法で…」
「いやメルは魔法を使い過ぎ、これ以上は駄目だよ。大丈夫、奥から何も気配は感じない」
「分かりましたわ」
確かに歩き詰めで肉体面の疲労も溜まり、魔法を使うのが辛くなってきていましたわ。
ですがそれを言ったら先程から魔法を使い続けている姉様はどうなのでしょう?まあ姉様のように無尽蔵に近い量の魔力を持っている方が、それを幼い頃から磨いて来ているのですから私よりもずっと効率的に魔法が使える筈ですわ。
ここは姉様のお言葉に甘えましょう。
そこは開けた大きな部屋で明かりは天井に開いた穴から差し込み、その穴まで相当な高さがありました。部屋からは無数の通路が伸びていて、どうやらここが中継地点となり各所に通路が伸びていっているようですわ。
とするとレティシアさんは一際大きな通路の先にいるという事でしょうか?
「うん、あそこからレティシアさんの匂いがする…だけど嫌な臭いもする」
「魔物ですの?」
「…分からない、変な臭いだ、ただ不快な臭いなのは間違いない。嗅覚じゃなくて別の感覚で感じる臭いだ」
「姉様、もしかして他にも臭いを感じていますの?」
「薄っすらとだけど血の臭いもする、メル…レティシアさんが攫われてからだいぶ時間が経ってしまった」
「ええ、私も覚悟してますわ」
そう言うと姉様は通路へ入って行く。
5分程でしょうか?途中で角に行き付いた時でした、遠くからむせび泣く声と明かりが見えましたわ。
もしや!そう思った姉様と
もしかしたらレティシアさんは無事なのかもしれませんわ!
希望を胸に
「アルベ――――」
振り返った先には立ち止まって灰掻き棒を掴んでいる姉様と、薄明かりに照らされた骸骨のように痩せこけ、皺だらけの男が灰掻き棒を振り下ろしている光景でしたわ。
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