13話 状況の整理
あの後、自警団や警邏官の人達が駆け付けて来てそこにバウマン子爵の婦人であるシャーロットさんがいて、色々と騒ぎになり掛けたけど事情を全て説明する事で何とか大きな騒ぎにならなかったけど、同時に事態はボク達が想像していたよりもずっと悪い方向に進んでいる事が分かった。
まずアーカムに村を捨てて移住してくる人が多かった理由、それはバウマンがソルフィア王国で禁制品とされている薬物の製造を行う拠点として私兵団を派遣して村を占拠させていたから、つまり予想されている以上にバウマンの私兵は数が多い。
そしてその私兵団は明日の明朝にアーカムに集結して暴動鎮圧の名の下に虐殺を始める。
それを事前に察知して司祭様達は西部方面軍に出兵の要請をしに行ったけど到着までまだまだ時間が掛かり早くても明々後日か最悪の場合は一週間後、自警団や警邏官の人達が秘密裏に搔き集めた旧式の武器と弾薬は2日分しかない、つまり絶望的な状況だ。
と、当初は思われていた。
ここからがボクに今まで女将さん達が隠していた事だ。
キルスティさん、セリーヌさん、アデラさんの三人は王立近衛騎士団第三中隊に所属する軍人さんだった、しかも国王直轄の部隊でメイド道を修め軍人としても功績を挙げた人しか入団できないエリート部隊の軍人さだった。
そして女将さんはその第三中隊の元隊長、副女将さんとリーリエさんは王室に仕える普通のメイドさんだった……全然、普通じゃないよね。
ララさんは第三中隊に転属する予定だったけど女将さんが中隊長を辞任させられた事で中隊に入る理由が無くなって女将さんを追って軍を辞め、シェリーさんも似た様な理由で諜報部を辞めたらしい。
ララさんが軍人だったのは前に聞いていたから驚かなかったけどシェリーさんが諜報員だった事は少し驚いてそして納得が出来た。
ソルフィア語以外にも周辺諸国の言葉を話せて何より誰とでも仲良くなる、うんまさに諜報員だ、確か杉原千畝も凄腕の諜報員でロシア語が堪能で何より自分から積極的にロシア人と友達になったと聞いた事がある。
それと何となく重なる。
次に淑女の酒宴とは一体何なのか?
それはソルフィア王国の闇を支配すると言われている巨大組織「オルメタ」のボスであるバウマンを検挙し王国内の非合法組織とそれに関係者を一網打尽にする為の秘密作戦の拠点だった。
女将さんが宰相から依頼されてキルスティさん達と一緒に敵の本拠地に表向きは酒場として裏ではセイラム領内で活動する軍や警邏官の人達が集会場として、時には自警団の人達に軍事指導を行ったりギルガメッシュ商会と協力して軍の払い下げ品を食糧庫や秘密の地下室に集積したり。
「悪いとは思ってるけど、やっぱりベティーにもマリアにも危険な目には合って欲しくなくてね、それで秘密にしてたのさ」
と、女将さんは申し訳なさそうにしていた。
別にボクもお母さんも秘密にされていた事で怒ったりしない、それはボクとお母さんの身を案じたが故の行動だからそれを責めるのはお門違いだ。
……もうこの時点でボクのキャパシティーは既に超えている。
エマがグリンダで、警邏官のお兄さんがグリンダの父親という衝撃の事実でもうキャパシティーは限界を超えているのだ。
そこに実は皆が秘密作戦に従事していたとかもう限界、久々に知恵熱が出そうだ。
というよりもう出ている、さっきからフラフラしてる。
昼間にはカリムとその親玉のセーシャルとか言う奴に襲われて死に掛けたのも重なって、何より左側の火傷がまた痛み始めた。
ううぅ…でもまだまだ整理しないといけない事がある。
頑張れ!ボク!!
ある意味ではボクにとって一番重要な事だ。
以前、司祭様から聞いたお母さんの過去の話で大筋から少し外して話している様に思えていた事があった、例えばお母さんが堕胎薬を飲まされたのに何でボクは何の問題も無く生まれて来たのか?バウマンの奥さんであるシャーロットさんが何に対して激怒したのか?何でだろうと思っていたけどシャーロットさんが宰相からの依頼でバウマンと結婚していたと知ってやっとその疑問が解けた。
シャーロットさんはバウマンに激怒して教会、つまり司祭様にお母さんを預けた。
そしてシャーロットさんとお母さんはイリアンソス学園に在籍していた時に姉妹の契りを交わしていた、というよりシャーロットさんの方が一方的に慕って気付けばそうなっていたとお母さんは苦笑いをしながら言っていた。
そして最後に女将さんとロバートさんだ。
二人は夫婦だった。
二人の間には息子が二人いて、その二人が独り立ちして家庭を築いた事を切欠に女将さんはメイド道を極める為にロバートさんと離婚して王立近衛騎士団に入団した。
騎士団の性質上、秘密作戦が多い事から離婚して離れなければ家族に危険が及ぶという考えから、ただロバートさんは離婚したつもりは無く今でも女将さんの事を心の底から愛している。
まだロバートさんとは知り合ったばかりだからはっきりとは言えないけどたぶん、とてもカッコいい人だ。
生き方とか心の形とか、たぶん男前な人だ。
さて、そろそろ限界だ。
もう…頭が…ぼーとして、考えがまと…まら…な――――。
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