17話 この出会いは、運命!!
「はい、今月もお疲れさん」
「ありがとうございます女将さん」
今日は7月15日、淑女の酒宴では毎月15日がお給料の支給日でボクは全額お母さんに上乗せして欲しいとお願いしていた、けどお母さんバレてしまい「ちゃんと貰いなさい」と怒られてしまった、なので今はちゃんと貰う事になった。
でも困った、貰ったとして使い道がないのだ。
ボクは家の外に出る事が殆どない、調理器具は親方さんに無料で作ってもらえているし、本とかは常連のお客さんから読まなくなった本を貰ったりしているから、子供が一番お金を使うおやつもリーリエさんが作ってくれる、つまりお金を使う機会が全く無い、だからひたすらに溜まって行く一方だ。
「そうそう、はいれこ。マリア宛にギルガメッシュ商会から商品券が届いてるよ」
何で?どうして?ギルガメッシュ商会が?と疑問に思いながらボクは女将さんから封筒を受け取り、封を開けて中身を確認する、中には商品券がぎっしりと詰まっていた。
「500ソルドの商品券が1,2,3……100枚!?」
「スライサーとホットサンドメーカーが売れに売れて、んでダルがマリアの提案だと言ってね、んでアーカム支店の店主がお礼だとさ」
どうしよう、女将さんにお店の為に使ってと欲しいと渡しても拳骨と一緒に返されてしまう、でも欲しい物となると、この世界に存在しない物ばかりだ。
前から欲しいと思っていた生パン粉は新しい料理に興奮していた副女将さんとリーリエさんの二人が、街に一軒だけあるパン屋さんに頼み込んで作って貰っているから、他に欲しい物となると……ううん、困った。
「どうせ今は休業中だ、店を開きたくても物がないからね。修練の成果も少しずつだがしっかり出てるしね、今日一日はベティーと一緒に買い物に行ったらどうだい?」
「それは良いわねマリア、一緒にお買い物に行きましょう!」
女将さんがそう提案した瞬間、気配を消して忍び寄っていたお母さんが後ろから現れてボクを抱きしめながら同意する。ボクは抱きしめる必要はあったのかな、と疑問に思ったけどそう言えばお母さんと一緒にお買い物に行ったのは、最終試験の時だけだったからボクは女将さんの提案に同意する事にした。
「グエ!」
アストルフォも一緒に行きたいみたいだ。
それにしても本当にあれだ、先月ようやく荷物が届いてお店を再開できたと思ったらまた今月の頭から長雨による定期便の遅延と街道の封鎖という合わせ技でお店は臨時休業中。
メンチカツ、トンカツ、チキンカツと言った日本の揚げ物をメニューに追加したばかりなのに、本当に領主には腹が立つ、あいつがしっかりと街道の整備をすればこんな事にならないのに、よし今日は憂さ晴らしに以前から試作がしたかったウスターソースやトマトケチャップに挑戦するぞ、その為にも材料を買い込もう。
「じゃあ、あたしも行くぜ、荷物持ちが必要だからな」
「ええ、お願いねリーリエ」
リーリエさんも付いてくることになった、そう言えば最近、お母さんはリーリエさんの事をさん付けしなくなった、前よりも親しくなっているみたいだ。
お母さんは法律上ではまだ成人していない、その所為で周囲に対して遠慮がちだったけどリーリエさんはあの性格だからお母さんにさん付けを止めさせたのかな。
娘としては大好きなお母さんとリーリエさんの仲が良くなるのはとても嬉しいから、しっかりと応援しよう。
さて自分の準備を始めますか、ボクは二階に上がって休日用の服を選ぶ。
ワンピースドレスだけだけど色違いが沢山ある。
白を基調に赤色や青色、栗色だったりと…今更気付いたけどこれってボクを表す白色と皆の髪の色とか自分の好きな色とか合わせた配色だ、赤はお母さんで青色は副女将さんで服の数も9着だから……服選びは慎重にしないといけないな。
今日はどれを着るべき、あ10着目があったこれは赤とこの色は確かグレージュでリーリエさんの髪の色だ、よしこれを着て行こう。
ギルガメッシュ商会があるのは商店街の真ん中辺り、空き家となっていた場所を
店先はガラスのショーウィンドで入り口は回転扉、店内は最新の照明器具が使われていて明るく天井に床、さらには商品棚の端にまで凝ったデザインになっていてフランスのシャンゼリゼ通りにあるお店の様だった。
リーリエさんを先頭にお店の中に、ボクはアストルフォに跨ったままお店に入ると店員が凄い勢いで走って来た、ふえ!?営業スマイルのまま走って来ないで!怖い、すごく怖い!
「いらっしゃいませ、これはこれはリーリエ様にベアトリーチェ様、それにマリアローズ様と……ヒポグリフ!?」
「アストルフォと言います、賢くて優しい子です」
「クエ!」
アストルフォを見た店員さんは最初は驚いて身構えたけど、ボクの言葉とアストルフォの絶妙なタイミングの合いの手で危なくないと理解してくれたのか、すぐに営業スマイルに戻って接客を始めた。
「本日はお越しいただきありがとうございます、そちらのマリアローズ様が考案した調理器具は王都で爆発的な人気を得まして、専売契約を結んでいる我が商会は多大な、おっと失礼、私はアーカム支店を任せられている店主でボッシュ・ボルティー二と申します、それにして―――」
とボッシュさんは語り出す、長いけどこれも人付き合いだ終わるまで待っていよう。
ボクが腹をくくるとお母さんがジェスチャーで「好きに見てきていいわよ」と言ってくれた、なのでお言葉に甘えてボクはアストルフォから降りてお店の中を見て回る。
アストルフォはボクが背から降りる事に難色を示した、ボクだって時には自分の足で歩きたいと言ったら、渋々と言った感じでボクの後ろを付いて歩く事にしたみたいだ。
アストルフォもそうだけど、少し過保護過ぎなんじゃないだろうか?
とりあえず、ボクは気を直してお店の中を見て回る。
ボクの背では棚の高い所にある商品は見えないけど中段辺りなら見える。
色々あるなぁ、缶詰や瓶詰と言った加工食品から瓶詰のソースと言った調味料、お酒や日用雑貨に二階には服や宝飾品があるみたいだ。
どうやらアーカム支店は小さな百貨店という感じだ、これだけ豊富な品揃えなら必要な香辛料が全て揃うはずだ、まずはトマトケチャップとウスターソースを作る為の香辛料を探そう。
ボクはアストルフォと一緒に少し捜し歩くとすぐに香辛料のコーナーが見つかった、近くに木の籠が置いてあったからそれに瓶に入った香辛料を入れて行く。
シナモン、グローブ、タイム、赤辛子(唐辛子)、ベイリーフは確かローリエの事だった筈だから、あ!でも某国営放送で紹介されていたトマトケチャップのレシピだとここまでスパイスはいらなかった、まあ試作をする訳だからとりあえず買っておこう。
次はウスターソースに使う香辛料だから確かシナモン、ナツメグ、クミン……よし幾つか思い出せないけど何となくこれだ!と思う香辛料があったからこれで集め終わった、ただドライフルーツを置いているコーナーを隈なく探してみたけどデーツが無かった、まあまずは普通に作ってからあの味を再現する事にしよう。
全部合わてたぶん12000ソルド、試作をする為に予備も買い込んだからそれなりの値段になった、商品券は残り38000ソルド……まだまだ商品券はたくさん残ってる、あ!?でもこれ消費期限が今月末までだ!よし気になった物を手当たり次第に籠に入れて行こう。
ボクはアストルフォの背に跨ってお店を見て回るけど、これだ!!という物が中々見つからない、日本だったら普段は高くて買えないウェ〇パーや創〇シャ〇タンにス〇ム、少しお高い三〇本みりんとか買うんだけど、全部売っていない。
また今度にしようと思ったけどお母さんとリーリエさんはまだボッシュさんに捕まっている、リーリエさんは苛々し始めていてお母さんは話を終わらせようと悪戦苦闘している。
仕方がないので最初に行ったソースのコーナーに戻って見た事が無いソースは無いか探しているとふと、お店の端に乱雑に置かれている木箱が見えた。
張り紙には『大豆のソース 大特価の300ソルド』と書かれていた。
大豆のソースかあ、何だろう。
考えられるのは煮詰めた大豆を香辛料で味付けしたソースだと思うけど、まさかね、あれじゃないよね、確かにソイソースと海外で言われていたけど……。
ボクはアストルフォから降りて、その大特価の大豆のソースが入った瓶を手に持ってみる。
無色透明のワインボトルに似た瓶の中には真っ黒な液体が入っていた、少し傾けて表面に付いた中の液体に天井に吊るされている照明器具の光を当てて色を確かめる、鮮度が落ちているのか、それとも元からその色なのか味を確かめないと分からないけど、その赤褐色には見覚えがあった。
そしてボクは確信に至った。
「醤油だ!」
ついに出会えた運命だ!ボクは興奮してお母さんとリーリエさんの所に走る。
「是非ともマリ―――」
「お母さん!リーリエさん!醤油です!醤油なんです!」
あ、興奮し過ぎてボッシュさんの言葉を遮ってしまった、でも別に問題は無いよね。リーリエさんは苛々が限界に達したのか表情が険悪になっていたし、お母さんも笑顔だけど目が笑っていなかった。
「ん?しょうゆ?前にマリアが言っていたやつか?」
「はい!そうです、この出会いは運命です!」
「マリア、そういう言い方は別の時に使う物よ」
「ですがこれは運命的です!これがあれば今まで諦めていた料理が作れます!」
興奮が治まらない、今すぐ買って帰って色々と作りたい。
「一緒に見て回りたかったけど、ここまで興奮しているなら早く買って帰った方がいいわね」
「暴走して何かしでかす前にな……」
お母さんとリーリエさんは呆れながらボクをアストルフォに乗せる。
あれ?何でお母さんとリーリエさんはボッシュさんを睨んでいるんだろう。
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