4話 初めての魔法講習

 今日からボクは魔法の使い方を習う。

 枯渇こかつした魔力も体の成長に伴って回復力も上がった事で予定よりも早く一定量を越えて魔法が使える様になったからだ。


 最初はメイド道の手習いから始める予定だったけど、予定よりも早く魔力が回復したからメイド道の前に魔法の使い方、制御の仕方を習得させるという方針に変わったとお参りの後に女将さんが告げられた。ボクの魔法の特性から先に制御の仕方を覚えないと危ないから、咄嗟とっさの時に誤って力を入れすぎるというのは、ボクの様に内向魔法に高い適性を持つ子供が起こし易い事故らしい。


 事故を未然に防ぐ為にもボクは制御の仕方を覚えないといけない。

 将来的にはお店に出て接客をする以上はお客さんに怪我をさせる訳にはいかない、何よりお母さんや皆を傷つけてしまわない様に完璧に成業できるようにならないといけない。


「気合が入ってるね、お店だと私が一番得意だから大船に乗ったつもりでいてね」


 今日からボクに魔法の制御の仕方を教えてくれるのはセリーヌさん、それとセリーヌさんの後ろにいるアデラさん。


 赤みのある黒い髪とシェリーさんと同じく胸が特徴的な女性だ、ただ気を抜くとすぐに見失ってしまう影の薄さと口数が少なくて今まで接点が少なかった、話をする事はあるんだけど基本的に聞きに周る事が殆どだ。


「アデラも、何か言う事ないの?」

「特に…ない、制御は基礎だけど、難しいから気長にね」

「あるじゃん……。まあアデラの言った通り制御は基礎だけど習得には時間が掛かるから焦らず腰を据えて覚えよう」

「はい分かりました、よろしくお願いします」


 魔法かあ、ついに魔法だ。

 ファンタジーの定番、ゲームはした事ないけど映画化された指輪を巡る物語やイギリスを舞台にした物語では定番だった、使えたら良いなと思っていたけどボクも使える日が来るなんて夢の様だ。

 あ、でも小難しい呪文を唱えたりはしないみたいだ。


 分かりやすく言うと超能力に似た感じかな、自らの内に秘められし魔力を操ってという物で杖を振って呪文を唱えたりしない、そこは少し残念だ。

 で魔法は大きく分けて二つ、大気中のマナに魔力で干渉して事象を引き起こすか自分に作用するかの二つに分かれ、ボクは自分に作用する内向魔法だ。


「じゃあ、まずは自分の中にある魔力の流れを感じる所から始めよう」

「はい」

「私の言葉に従ってイメージしてね、内側に―――」


 目をつむりセリーヌさんの言葉に耳を澄ませる。


 自分の内側にある、体を巡る流れを意識する。


 体の中心にあって体中に血管の様に張り巡らされている、血液の様に体を巡っている魔力の流れ……これかな?あ、たぶんこれだ。

 これを全身にまとい一か所に集中させたり、内側だけに閉じ込めたり、あ何となく分かって来た。


 体に力を入れる感覚、体から力を抜く感覚に似ている。


 走ろうと考える、魔法を使うという事は走る意思の確定で使える。

 逆に言えば魔法を使わない、その意思の確定で制御できるけど突発的に頭に血が上って人を叩いてしまう、それが魔法による事故の原因になっている。

 うん、ボクもよく分からなくて説明できない。


 考えるのは諦めよう、感覚を直感を駆使くしして制御するのが魔法だ。


「ちょ!?マリア!何で?どうして!?」

「ふえ!?」


 セリーヌさんに肩を掴まれて我に返った、ボクどれくらいの時間、意識を内側に向けていたんだろう、早朝の朝ご飯の前に始めていたのに時計のカッコウの声が聞こえて来ている。


 セリーヌさんが肩を掴まなかったら夕方までやっていたかもしれない。


「ありがとうございますセリーヌさん、集中し過ぎました」

「そうだけど、そうじゃない!」

「マリア…今、完全に……制御してた」


 あれ?制御してた?何で今日始めたばかりだよ。

 いきなり制御できましたなんてラノベじゃないんだから、それに生前のボクは凡人以上で天才以下という半端な位置にいた。クラスに必ず一人はいるクラスでは天才だったけど進学先の高校では凡人扱いされる人だよ。


「ならあそこの石、持ってみろ」

「あれですか…重い……」


 中庭の隅にある大きな石、子供には到底無理だよ。

 あ、そうだあの感覚で持てばいいのかな。

 う~ん、魔法発動!


「持てた」

「……素直な子…だから、たぶんそれで……」

「それだけで説明はつかないよ」


 セリーヌさんは頭を抱えていて、アデラさんは拍手をしている。

 ボクは何かやってしまったのだろうか?もしかして本当に初日から制御を習得しちゃった。


「よく考える子…聞いて…考えて…理解する、シェリーも言ってた」

「つまり、私が言った事を鵜呑みにせずに考えて理解した、ということ?」

「その…通り」


 セリーヌさんが蹲ってしまった、やばいこれは色々と問題行動を起こしてしまったかもしれない、取り合えず石を元の位置に置いて体に纏っている魔力を解除して……出来た、まだONとOFFはすぐに出来ないけど体に感覚が染み付いたから咄嗟とっさの時に事故は起こさない筈だ。


「マリア…へーい、へーい…タッチ」


 アデラさんがそう言ってボクの方に手を向ける、何でだろう取り合えずタッ―――。

「痛い!?」


 タッチしようとしたらアデラさんが急に勢いをつけてボクの手に平手をして来た。

 すごく痛い、あれ、手首の方向が変だぞ?


「ほ、骨折れた!?」

「あっちゃ~」

「こんの馬鹿野郎!!」


 とても腹の立つ仕草をするアデラさんを後ろから走って来たリーリエさんが背中に蹴りを入れる、勢いよくボクの前に倒れ伏すアデラさん、本当にこの人は何がしたいんだ。


「なんで魔法の練習してらマリアの骨が折れんだよ!何やったんだてめえ!?」


 むくりと起き上がったアデラさんはリーリエさんに向かって目で非難しつつあの殺人タッチの言い訳をする。


「ちゃんと…無意識下、でも制御できるか…確認の為に、強めに…タッチ」

「強めで手首が折れるか!どんだけ力入れてんだよ!」

「それくらい…じゃない…と、私の手が持って、いかれた…かも?」


 リーリエさんはアデラさんの頭に力いっぱい拳骨をいれる。


 そう言えば淑女の酒宴で働いている人って非常識な人が多い、セリーヌさんはつまみ食いと称して半分以上も食べて怒られてた、キルスティさんはお客さんを投げた事あるし、ララさんは定期的に物騒な物を手入れしてる。

 女将さんは普通にビールの樽を片手で持って運んでいるし、副女将さんは休日には必ず抜けた事する。

 お母さんは言うまでも無い、あれ、常識人てリーリエさんとシェリーさんだけ?


「マリア、姉さんとこ行こうか……」

「え?あ―――」


 忘れてた、すごく痛い!

 助けて副女将さん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る