5話 副女将さん、キレる
「もう大丈夫です」
あれからすぐに副女将さんの所に行って治癒魔法をかけてもらった、その時に腕に魔力を集めるだけという感覚を教わって、それから副女将さんの指示に従いながら意識を集中させて骨は綺麗に元通りになった。
治癒魔法にボク自身の回復力を合わせる事で普通なら何か月もかかる骨折が完治した。
でもまた少しだけ痛い……。
「痛みの
「はい……」
ううう、ジンジンするでもこれで根を上げていたらこの先にある本格的なメイド道の修練には耐えられない、最初は何事も簡単だけど続けて行く内に最初は簡単だったという感覚でいたら必ず大きな
気を引き締めて、この痛みだって油断するな慢心するな天狗になるなという戒めだ。
でも痛い!
「泣いても問題ありませんよ、普通なら泣き叫ぶ怪我です。アデラは後で、トイレを手で直に洗ってもらいましょう」
「そこまでしなくても、悪気があった訳ではないんですから……」
ボクがアデラさんを庇うとリーリエさんは声を荒げる。
「マリア!甘すぎだぞ、あの馬鹿にそれくらいしねーと、次もやるぞ?」
うん、そんな気がします。
彼女は天然なんですね、でもボクが何か大きな失敗をする前に自分が逆に大怪我をするかもしれないのに、ちゃんと制御が出来ているか確認してくれた訳だし…結果はボクが大怪我したけど……うん、やっぱり何か罰は必要だと思う。
「でしたら正座などはどうでしょう」
「正座とは、何ですか?」
こっちの世界には正座の文化は無いみたいだ、ヨーロッパとかも正座の文化は無いみたいだし、よし実演だ。
「こういう風に座るんです、慣れてないと辛いですよ」
「へえ、そりゃあいい……」
「トイレを手で直に磨かせるのは既に8回命じています、良い機会ですし新しい
アデラさん、予想以上に天然みたいだ。
あの行動にはこれと言って深い考えがある訳ではないみたいだ、思い付いたからやったたという可能性がある。
その後すぐに正座が実行に移された。
今、目の前ではアデラさんとセリーヌさんが正座されている。
セリーヌさんは顔を青くして必死に耐えている、アデラさんは無表情だけど顔を青くてセリーヌさん以上に辛そうだ。
「あの、もう許してあげても、ボクもこの通り骨も治りましたし……」
「駄目ですよマリア、この二人は何かと問題を引き起こす筆頭、運よく大事に至りませんでしたがこれを機に心を入れ替えてもらいます」
でも、慣れない正座はすごく辛くて見た目以上の苦行だからさすがに1時間もしたのなら許してあげても良いんじゃないだろうか。
ボクの訴えかける目に副女将さんは折れたのか溜息を吐いて二人を見る。
「仕方ありませんね、二人とも次回はこの3倍の時間は覚悟してくださいね」
「……」
「私は何もしていないのに……」
正座から解放されたアデラさんはその場で倒れて微動だにしない、セリーヌさんは足が痺れて一歩も動けずに突っ伏して自分は何もしていないのにと訴える。
「何もしなかったのが問題なのです、アデラの行動を先読みして未然に防ぐのも貴女の役割です」
「無茶な……」
それは理不尽だと思います、アデラさんの行動を先読みするなんて心の中が分かる人じゃないと不可能だ、ボクだってセリーヌさんと同じ立場になったら同じ様な失敗をする。
「おうアデラ、辛いか?なあ、辛いか?」
「…(ビク)…(ビク)」
さっきからリーリエさんはアデラさんに追い打ちを掛けている。
痺れて動けないのをいいことにに足の裏を突っついている、突っつかれる度にアデラさんはビクと震えている、うん辛いよね正座して痺れた足を突っつかれるのは……。
「セリーヌ、それでマリアの魔法の制御はどうなりましたか?」
「完全とは言えませんが殆ど完全に近い形で、習得したみたいです」
副女将さんの質問にまだ足が痺れて苦しそうなセリーヌさんは震える声で答える。
「そうですか、先程も魔力の流れを制御していました。驚きですが喜ばしい事でもあります」
「でもよ、それだと色々と前倒しになるぜ」
そう言えば本当だったらボクはまだ制御どころか体内の魔力の流れも感じられない筈だった、今後の予定もそれを前提として立てている訳だから予定が大幅に狂う事になる。
既に予定を立てて準備もしているのだから最初から狂わすわけにはいかない、それに今日一日で完全に習得したとは思えない。
「副女将さん、まだ自信が無いのでこの後も引き続き制御に関する修練を積みたいです。予定が少し早まる程度で大丈夫なはずです」
「そうですか、分かりました。では明日からもお願いしますね二人とも?」
「「はい」」
後日、ボクは再び骨折する事になる。
三日後には魔力の制御は完全に習得した、また骨を折られたくなかったから……。
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