2話 仕事始めの初詣
1月4日はメイドの仕事始めの日だ。
日本の様に新年の挨拶をして業務開始という訳ではなく最初は教会にお参りをしてソルフィア様の侍女長を務める家庭を司る女神でメイド道の祭神であるエスティア様に新年の挨拶と新しく働き始めたメイドや新しくメイド道を習う人の報告を行い、一年の無病息災・家内安全を祈ってから簡単な道具や制服の手入れと家の掃除を行って終了という流れだ。
ソルフィア王国では一般的にお参りの文化は無い、神様は常に身近にいるという考えから各家々に神棚を置いて日々祈りを捧げる、一年の最初も神棚にお祈りを捧げるからお参りはしない。
メイドはエスティア様を信仰しているけど各家によって祭っている神様が違うから神棚やそれに類する品を持ち歩く訳にはいなかない、だけどエスティア様はソルフィア様の傍らにいるから新年は教会にお参りをするという伝統がある。
なので今日はアーカム教会に行くんだけど皆の顔が苦虫を噛み潰した顔になっている。
お母さんは
あ、うん、ボクも司祭様は苦手だ。
だけどボクにとっては初めてのお出かけだから少し興奮している、街を歩いた事はあるけどそれは病院からの帰りで注射から少しでも早く逃げたいという気持ちが勝って、ちゃんと見ていないから気分的には初めての街歩きだ。
ただ不本意な事にボクは今、ワンピースドレスを着ている。
うん、まあ今までの様に体がが小さいから問題なく着れるという理由で少し仕立て直して着ていた幼児服を今日も着て出る訳出にはいかない、それ以前に普通なら幼児服を卒業している歳なのだ、いずれボクもメイド服を着るのだから今日から慣れる努力をしよう。
ちなみに今着ているワンピースドレスは副女将さんとお母さんの手作りで使われているのはセイラム領の名産品である
お母さんと副女将さんに服を作ってもらえてすごく嬉しいんだけど、ボクの中身は男なので不思議の国のアリスでアリスが着ていたような服は恥ずかしい、けど耐えろ嫌がればお母さんが泣く!
あ、パンツはブリーフの延長と言う感じで割り切っています。
今は9時を過ぎた頃だけど外は少し薄暗い、曇りなのと濃い霧が出ているからだ。
アーカム周辺ではそうでも無いけどセイラム領は濃い霧が出やすい事で有名らしい、前に病院から帰る途中に大きな灯台が目に入ってお母さんに聞いた時に教えてもらった。ラフタ灯台、アーカムの象徴で濃い霧で方向が分からなくなり街道から外れて迷う人が出ない様にアーカムが軍事施設だった時に建てられた灯台で、建造から500年近く経った現在では使われなくなり史跡として残され観光名所になっている。
灯台の周りには大きな広場が作られていて、今の様に珍妙な領税が施行される前は定期的に催し物が開かれていた。
「クエ」
アストルフォも準備が出来たみたいだ、女将さんに連れられて行ったときは何を準備するんだろうと思っていたけど、背中に
「クエ、クアクエ」
アストルフォはどや顔で、疲れた時には乗せてやると言っている様だ。
うん、疲れた時には素直に乗せてもらおう。
せっかく準備してくれたのにボクが意地を張ってアストルフォの気遣いを無駄にするのはよくない、ボクは何時もの様に感謝を篭めて抱きしめる。
「それじゃあ行くよ、あの馬鹿が何かしたら分かってるね?」
「「「「はい!」」」」
力強く発せられた女将さんの言葉に皆は気合の入った返事で答える。
いや、何でお参りするだけでなのにそんな今から敵地に乗り込むみたいな事を、お母さんまで一緒に……。
「グエ!」
アストルフォ、君まで……。
それだけボクは大切に思われている事か、うん、すごく嬉しい。
皆の服装は何時もの午前着ている制服ではなくて、午後にお店を開いている時の制服を着ている、日本で言う所の晴れ着と同じ感覚なのかな。
それからお店を出て大通りの歩道を歩いて教会に向かう。
今、歩ている大通りは見た事は無いけど大きくて広い門前広場から延びる三つの大通りの一つ真ん中の大通りの馬車通り、真っ直ぐラフタ灯台のある広場まで続いていて門前側が淑女の酒宴のある宿場街、灯台側が商店街になっている。
中間の位置に両隣の大通りを繋ぐ通りがあってそこを右に曲がって隣の大通りである軍馬通りに入る、名前の由来は屈強な軍馬が通っても大丈夫なように
灯台側は職人街になっているけどシェリーさんが言うには領税が重くて職人の大半は別の領地に移ってしまって殆ど空き家になっているらしい、残っているのは
職人街を歩いていると霧の向こうに建物が見えて来る、あれがアーカム教会なんだ。
一瞬、お寺!?て思ったけど近付いて行く内に似ているけど明らかに違っていた。
でも教会を囲む
門をくぐると参道があってその先に
本殿と
それに手水舎があるのも驚きだ。
同じ多神教だからなのだろうか。
前は裏口から出たから分からなかったけど日本の神社仏閣に似た要素が所々にある。
「どうだいマリア、改めて見る教会は?」
「驚きです、ボクのいた世界と似ている所があったり違う所がったりして面白いです」
「そうかい、でも今日は用事を済ませてさっさと帰るよ」
「はい、ところでその皆さんは何でボクを中心に陣形を組んでいるんですか?」
そうなのだ、何で皆は教会の中に入ると同時にボクを守る様に陣形を組んでいるんだろう、確かに司祭様とは色々ありましたがここは敵地ではないんですから……。
その先には本殿に続く通路だけどそこから先は教会に籍を置く修士や巫女、司祭しか入れなくて時期によって区切られているけど男子禁制・女子禁制らしい。
「皆様、お待ちしておりました」
「セラスじゃないか、どうしているんだい?」
「それはレオニダス殿が少しやらかして本部に召還されましたので私が代わりに女司祭として派遣されたのです」
セラスさん、その恰好は日本の巫女服!と最初言いそうになったけどよく見たら違っていた、赤と白を基調にした巫女服に似た洋服だった、入院していた頃にお世話をしてくれた女性の修士さんとは違った出で立ちだ。
あっちは灰色を基調としてキリスト教の修道服に似ていた。
「ですが何故、総出でいらしたんですか?カチコミでもなさるおつもりで?」
「ちげーよ、手前んとこの馬鹿がまたマリアにちょっかいけねえように総出で来たんだよ」
リーリエさんの返答にセラスさんはクスクスと笑いボクを見る。
何だろう、聖女様てこういう雰囲気の人を言うんだろうか。
「あの方ももう少し他者を信じられる様になればいいのに、こんなに可愛らしい子を疑うなんて」
「それは仕方ないと思います、自分でも似た様な状況なら警戒していたと思います」
あ、うっかり返事をしてしまった。
何と言うか返事をしないと失礼な気がしたから、うん仕方がない。
「優しいのですね、ですが彼がまた同じことをしたら迷わず制裁を加えてください、それもまた優しさです」
え、それって優しさなんだろうか?
確かに間違っているなら正したり止めたりするのも優しだ、同意したり指摘しないのは優しいのではなく甘いだけだ、自分が傷つきたくないから嫌われたくないから、それは優しいとは言えない。
でも司祭様のあれは自分に課せられている役目を全うする為で、ううん難しいなボクは確かにこの体にしては大人びているかもしれないけど、15歳で死んでしまったから社会経験はとても少ない、偉そうに言える立場でもない。
「ふふ、すぐに同意せずに自分でしっかり考えるのは良い事です。正しい答えはありません、ですが答えを探す事を諦めなければその人にとって最良の答えを見つけ出せる様になります、しっかりと悩んでください」
あ、ボクが考える事を促す為にわざと言ったのか。
この人は見た目こそ若いけどたくさん色んな経験をしているんだ、うん、ボクもしっかりと考えて胸を張れる生き方をしよう。
「さて、それでは奉納する名簿を受け取りましょう」
「新人はいないけど、新しくメイドの道に入る者がいるさね」
「この子ですね、それでは五歳菓子を持って来ますので少々お待ちを」
そう言うと女将さんから渡された名簿を持ってセラス様は本殿の方に消えて行く。
五歳菓子?何だろう千歳飴みたいな物かな、つまり甘いお菓子!楽しみだ。
「なあ、姉さん。説明した方が良くねえか?」
「それでは五歳菓子の意味がありません、黙っておくのも優しさです」
あれ、不穏な言葉が聞こえて来た。
もしかして五歳菓子というのは千歳飴とは似ても似つかない物なのだろうか。
不安になって来た。
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