26話 暴かれる過去
「最初の質問だ、君は何歳で死んだ?」
高校に進学する前、合格が決まった後で卒業式の前だから15歳だ。
「15歳です」
水晶の色は変わらない、今の所は司祭様の都合の良い方向に
「では、死因は?」
「……」
父さんに殺された、とはっきり言うべきなんだけどいざその事実を口に出そうとすると口が重くなって喋れない、でも言わなければあらぬ疑いを掛けられてしまう。
「父に、殺されました」
「偽り有りか」
何で!?、何で水晶が灰色になるんだ。
僕は何も偽っていない。
「司祭様、僕は偽っていません」
「なら詳細を教えてもらえるか、父親に殺意を抱かれた原因を」
僕は酷い表情をしているはずだ、今から自分が殺された
「父は、父は僕に無能であれと言い続けていました」
「それで?」
「長男と言う理由だけで家督を継いだ父は、家督を有能な弟の血を継いだ甥っ子を後継者にする様に親族から言われていて、だから僕は無能である必要がありました」
「ふむ」
「僕は父が馬鹿にされていると思って無能であることを拒みました」
だから僕は死に物狂いで勉強をした、好きだった料理だって切欠は勉強に役立つという理由からだった、苦しくて仕方なかった日々を生きて行く為に必要な息抜きで趣味だった、けど切欠は勉強の為だった。
見返してやりたかった、どうだお前たちが無能だと笑って来た男はこんな立派な息子を育て上げたんだぞ、もう馬鹿にするな!って、父さんを馬鹿にする人たちを見返してやりたかった。
結末は父さんに恨まれ殺されるという物だったけど……。
「嘘はないようだな、なら次の質問だがはいかいいえで答えてくれ」
「はい」
僕の返事をしたけど質問はすぐには来なかった、司祭様は目を瞑り何かを考えている様で一分、いや実際には10秒にも満たない時間だけ考えて目を開けてボクを見て口を開く。
「ベアトリーチェを騙す目論みはあるか?」
「いいえ」
知られているならもう隠せない、隠し続けるのは、偽り続けるのは僕には出来ない。
だからこの後、お母さんに全てを話す、拒絶された時は素直に出て行く。
「覚悟を決めているのか……では次の質問だ。異界の生まれか?」
「はい」
その質問はもっと前にすると思っていた、だから
「ギリウスと同郷か?」
ギリウスの火、たぶんギリシャの火だ。
世界史で習った事がある、詳しい事は分からないけど紀元前のギリシャで生み出された火薬の様な物の事だったと思う。
同郷、つまり同じ世界という事だと思う。
「はい」
「では君は罪を犯したか?」
「いいえ」
僕は何も悪い事はしていない、だけど父さんにとっては裏切りなのかもしれない、でもそれを罪とは思わない、思ってしまえば全てが無意味だったことになる。
「前世での事に罪悪感はある様だな、だがそれはお前の父が愚かなだけだ、子に不幸を背負わせるのは親として恥ずべきことだ」
水晶を見ると灰色になっていた。
「父を憎んでいるか?」
「いいえ」
父さんは生まれが不幸なだけだった、あんな生まれ方をしなければもしかしたら普通の親子になれたと思う、父さんもあの家の被害者だ。
「透明のままか、恨むのが苦手なのだな……」
司祭様はまた目を瞑り考え込む。
今までの質問で結論を出しているとは思えない、質問をする時の目は一切の感情と先入観を捨てた目をしていた、少しでも悪性があれば処断するという目をしていた。
「君は何か、兵器に関する知識はあるか?」
兵器、ミサイルとか拳銃の事かな。
名前を知っているだけ、は知識があるとは言えないけどテレビで何度も紹介されて弾道ミサイルとか人並みには知っている、その程度だけどその程度も知識があると言えるのだろうか。
昔の軍艦に関しては少しだけ周りより知っているけど、日露戦争辺りまでだ。
細かい事は分からない。
はい、とも言える。
いいえ、とも言える。
「はい、ですが詳細は知りません。製造方法も使われ方も分かりません、昔の軍艦に関してなら少しだけ船の形や艤装を調べた程度です、何か専門的に習ってはいません」
「二択だと言ったんだがな……昔の軍艦に関してと言ったがそれはどの様な形をしていた」
司祭様は懐から紙と鉛筆を取り出した、鉛筆あったんだ。
普段、勉強をしている時は羽ペンを使っていたからまだ開発されていないと思っていた。
それに一緒に取り出したのは消しゴムだ。
「君がよく知っているのを描いてもらえるか?」
「はい」
良いのだろうか、でもララさんが持っていた小銃は授業中に先生が熱く語っていた小銃に良く似ていた、なら軍艦もそれなりに発展している筈だ。
僕が描くのは唯一知っている三笠だ。
艤装に関しては大まかにしか分からない。
「ふむ、上手いな」
「え?」
「いや、忘れてくれ。で名前は何というのだ」
「ミカサと言います、僕が生きていた頃より100年以上前の軍艦です」
「100年以上前だと言ったな、では最新の軍艦は分かるか?」
「詳細は分かりません、形だけなら…こういう感じです」
名前は憶えていないけど弾道ミサイルに関するニュースで何度か目にした。
「……兵器に関する質問はこれで終わろう、どうやら嘘は無く、知識も私が出会った中では一番持っていない、警戒するも必要はない」
良かった、危険だから幽閉とか言われるんじゃないかって不安になっていたけどその心配はないみたいだ。
「では最後の質問だ」
「はい」
最後の質問は返答によってはたぶん、僕は何かしろの処分を受ける筈だ。
気を引き締めないと……。
「私の個人の意見だが、ベアトリーチェは
は?今何て言った、こいつはお母さんを
「落ち着け、本心ではない、君の反応を見る為だ」
「……」
気付いたら僕は司祭様に掴みかかろうとしていた。
頭に血が上って自分を抑えれなかった。
深い愛情で僕を包んでくれた、ずっと欲しかったずっと憧れていた愛情と優しさを僕にくれたお母さんを馬鹿にされて、我慢が出来なかった。
「君は、悲惨な人生を送ったというのに、曲らず真っ直ぐなのだな」
本心じゃなくても馬鹿にしたのは許せない、頭で分かっても心が納得しない。
「ベアトリーチェに似て、愛情も深いようだ」
納得しろ、抑えろ、感情的になるな。
「だが言わねばなるまい、君の生い立ちを……」
僕の生い立ち?そう言えば僕のマリアローズとしての父親は誰なんだろう。
それにお母さんは自分の生い立ちを話してくれた事がない、お祖母ちゃんやお祖父ちゃんの事も殆ど知らない。
「ベアトリーチェ自身の事も聞いていないようだな、当然ではあるか、話せば君の生い立ちを話さねばならなくなる」
「どう意味ですか?」
「……はっきりと言おう、マリアローズ、君はベアトリーチェが望んで得た子供ではない」
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