非科学的反応
文野麗
第1話一方的な出会い
目の前にある絵を見て、その美しさに良和は呼吸を忘れた。青くどこまでも続くかに見える空も、あたかも本物を持ってきて吸い込ませたような印象的な白い雲も、一つ一つの葉が少しずつ異なった色を見せる清らかな緑の大地も、それぞれがあまりに綺麗に調和して、一つの世界を作り上げていた。題名は「春の歌」であったが、音楽の雰囲気を漂わせたその絵は、各部分が異なった旋律を奏でており、全体で一つの曲となっているように感じられた。耳をすませば本当に春の歌が聞こえてくるようであった。
どれくらいその絵に見とれていたか良和はわからなかった。谷川良和は決して絵に興味をもつ少年ではない。ここは光石学園の美術室だ。今日はこの学校の文化祭だ。良和は友達とはぐれて一人で歩いていた。誰もいない薄暗い廊下を進んでいると、美術室に部員の描いた絵が展示されていた。そこで良和は、さして興味もないのに、何か不思議な引力で部屋の中へ吸い込まれるように入っていったのである。そして目に留まったのがこの絵であった。少しの間見とれてから、ため息をついて現実に戻った。その絵の題名の隣に、「中等部3年2組中山静」と書いてあった。これは描いた部員の名前なのであろう。中山静か、どんな女の子なのだろうと良和は考えた。静などというのだからきっと清楚でおとなしい女の子なんだろう。この女の子に会ってみたい。やはり進路は光石学園高等部にしよう。中学3年生の良和は、進路する高校を密かに決定したのである。
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