¶12

 対策部長の指示で、大通りの両側に機動隊が配置された。分隊AとBがそれぞれが進み、蜂ロボの行き場を無くす。蜂ロボが群れているこの通りは、商店で構成されていて、シャッターを降ろせば壁になる。うまく使えるはずだ。

 俺は捕獲計画の助手として、特別に対策部長と同じ放水車のカーゴに乗っている。

 「失敗すればお前の責任だからな」

 と彼は言う。やはりトカゲの尻尾の器だな、と思いつつ、機動隊の方を見やる。POLICEと白抜きで書かれた青い防具をまとい、なかなかたくましい隊員たちが道路をふさいでいる。そして99セントの鎮圧用特別武器……虫取り網、ハエたたき、ちりとり、ほうき、ごみ袋を勇ましく構えていた。というか手に持っているだけだが、統制のとれた軍団なだけに凄みがある。

 対策部長がスピーカーで号令を出した。ハウリングで耳が痛い。

 機動隊はスパルタ戦士の如く直進を始める。俺は分隊A側にいた。先頭のA1班がかがんでアスファルトに蠢く蜂ロボを掴んでみ袋に集める。刺さないとはいえ気色の悪い塊に手を突っ込む勇気を称えるべきだ。後方のA2班が壁となり得物を目にも止まらぬ速さで振り回す。その中に、ハエたたきを的確に当てて蜂ロボを仕留め続けた猛者がいるのを覚えておきたい。更に後ろA3班がバッテリー切れで落ちてきた蜂ロボをほうきで掃く。バディの息のそろった仕事には脱帽する。A4班は単独で、路地にて一般人の誘導をしていて、蜂ロボに対しては、誘導灯を豪快に振りかざして妨害した。(ヲタ芸というのを調べてみたらいい)

 虫網やハエたたきの波状攻撃を受けた蜂ロボは、徐々に通りの中央に押し込まれた。いまだ、ワーン……という低音の響きがするものの、数は最初の半分以下だろう。つむじ風のように渦巻いている蜂ロボの群れに放水車が散水する。蜂ロボは水圧に負けて飛ばされたり、避けにバッテリーを使って地上に落ちた。

 残った蜂ロボは上方向へ逃げた。それは予想していたのでA5班が配備されている。許可を得た店舗の高層から、見降ろして蜂ロボを狙撃する。空気圧縮型ポンプ式大型水鉄砲で。途中で水をくむ手間を省き、バケツの水を直接ぶちまくやり方に変えた。バケツリレーの体力に恐れ入る。同じく高層にいる別動隊A6班が網を投げる。それはうまく円形に展開して蜂ロボをからめとった。よく見えなかったが網を発射する道具があるようだ。狙いは完璧。地上に落ちてきた幾つかのゾワゾワする塊は、すぐ地上班がブルーシートで巻いて持ち去った。


 室内へ避難した人々は、撮影しないよう指示されている。しかしやるなと言われればやりたくなるだろう。警察の死角から、つまり、どうしても警察が補えない箇所から、写真を撮ったり生配信が行われた。俺は作戦の最中に、ちょっとInstagramやTwitterを覗いたが、かなりのメディアが拡散していた。対策部長はSNSにうといので、その取扱いも俺に仕事を投げた。俺はこれらを後で証拠として扱おうと思う。犯人はこの街中にいる。こんなにも長く蜂ロボをハッキングするにはそうするしかない。だからどこかに映っているか、投稿者本人が犯人だ。

 犯人が複数であれ単独であれ、このような事態収束を喜ばないだろう。人々が制御不能な群れを恐れ、街がノイズに沈黙し、警察や俺たちが何も出来ずに夜を待つ……。そんな状況を作ろうとしたに違いない。

 だが実際はどうだ? もう機動隊は通りの中央で集合するぞ。

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