21③-⑥:逃げずに、生き抜け、この理不尽な世界を。
「…行っちゃったね」
「…そうだな」
テスは、セシルの消えた場所をしばらくじっと見ていた。だが、やがてふっとほほ笑む。
「何も悲観することは無いよな。これからは、あいつの傍にずっといられるんだから」
『そうそう。それにオレだっているよん♡…ぐふう!』
テスに抱きつこうと跳び付いたジュリアンは、さっと避けられ地面に顔面ダイブをした。
『ひどい、ひどい。オレ、今までお前を浄化しようと、散々苦労してきたって言うのに。こんな仕打ちないだろ』
「そう言えば、先程のセシルの質問だが、俺には答えてくれるだろう?女神さん」
『オレをスルーするな!』とわめくジュリアンの頭を、足で踏みつけると、テスはナギを振り返る。
『…ああ。お前の業についてだが、それはだな…』
ナギは、少し寂しげな気配の感じられる、微笑みを返した。
『自殺だ』
「自殺?」
自殺が業―罪になりうるのか?と、首をかしげるテスに、ナギは重々しく口を開く。
『自殺は詳しく言えば罪ではない。だが、自身がその人生でするべきだった課題を、すべて放棄するという行いだ。自殺をすればその人生での学びは為されなかった事になり、課題は最初からやり直し。それどころか、来世は2つの人生分…2倍の課題を背負うことになる。…お前の場合、自殺をせずともあのまま死んでいただろう。だが、自ら死を選んでしまったという事が、魂の履歴としては残ってしまったのだよ。だから、セシルには、2倍の負荷がかかることになった…』
「なんだか、理不尽なルールだな…。俺は自殺をしたかったというより、自殺せざるを得なくなったというのに…。俺を自殺に追い込んだのは、そうせざるを得なくした状況だというのにな…」
『すまない。世界が滅びかけていようが、この仕組みは変えられないんだ』
「どうしてだ?」と聞くテスに、ナギは寂しげに笑った。
『神でもできない事があるんだ。さっき言っただろう?神は万能じゃないと…。だけど、こういう仕組みが存在しているという事は、おそらく私やイゼルダよりも高位の存在がいるのだと思う。こんな理不尽な仕組みを作った誰かが…』
しかし、ナギは『だけど』と遠い目をした。
『世界は理不尽だからこそ、得られる物があって、出会える者がいるのかもしれないな…。私も、お前もリアンも、そうだろう?』
「『……」』
―世界は理不尽だからこそ、得られる物、出会える者がある
理不尽が与えてくれた不幸の数々を思い返せば、テスとリアンの2人は、感情的には納得がいかない。
だが、理屈で考えると、確かに納得がいく部分もあった。だから、2人は、ナギの言葉に頷きはしなかったものの、ナギが見つめる先に、同じく視線をやった。
『…とにかく』
ナギは、再びテスと視線を合わせると、神妙な顔で続けた。
『お前の来世―セシルの今世の課題を分かりやすく言うと、「どんな苦痛が襲いかかろうが、どんな不幸が襲いかかろうが、最後まで逃げずに人生を生き抜く事」だ』
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