21③-⑦:だから、ちゃんと見てろよ。

「……ん?」

 セシルが暖かい心地の中、目を開けると…

「…カイゼル」

 カイゼルの背に負ぶさられていた。


「やっと目が覚めたか。他の皆はもう起きてるぜ」

 その言葉にセシルが首を回すと、ロイがレスターを背負いながら歩いている。ノルンは、アンリに肩を貸されながら歩いていた。


「ロイ、降ろせ。俺は一人で歩ける」

 セシルに、負ぶってもらっている所を見られたレスターは、居心地が悪いのか降りようとした。


「何言ってんだ、バカ!無理したら、後々障るぞ」

 ロイは、背から降りようとするレスターを、無理やり背負いなおす。


「大丈夫だって!」

「大丈夫じゃない。オレとノルンの目が覚めるまで、ずっとセシルを無理して背負っていたんだろ?だから休んどけ」

「だけど」

 セシルの目があるから、恥ずかしいのだろう。レスターは意地になって降りようとする。



「レスター、別に怪我人が背負われていても、恥ずかしいことじゃないと思うよ。大人しくロイの言う事を聞いて」

 セシルは、おかしい心地をこらえながら、レスターに言う。


「…分かった」

 すると、レスターは大人しくなって、ロイの首に腕を回した。やはり無理をしていたのだろう、レスターはこてんとロイの肩に頭を預けて、具合が悪そうに目を閉じた。


「まったく、困った男だぜ。ありがとな、セシル」

 ロイはため息をつきながら、レスターを背負いなおした。



「カイゼル、ここはどこ?」

 セシルはあたりを見回す。先程の場所でないことは分かるのだが、白い雪の山脈ばかりが連なっている所を見ると、北の地だろう。空は晴れてはいるものの、高い所にある雲が薄く桃色がかっている所を見ると、夕暮れ時のようだった。


「リトミナと北の地の間にある山地だよ。まだ、10分の1すら進んでないけどな。転送魔法と吸収魔法を組み合わせればすぐに帰れるはずだけど、それはノルンとお前がある程度回復してからにするから、後2.3日はこの辺りで休息しよう」

「休息って、こんな雪だらけの所で野宿したら、凍死するんじゃ…」

「大丈夫だ。アンリが、医療道具だけじゃなくて、簡易テントとか色々と持ってきてくれていたんだ」

「え、アンリが?」


 セシルは驚いてアンリを見る。すると、アンリは得意げに、背負っていたリュックを降ろした。


「転ばぬ先の杖ってやつだよ。医者たるもの、常に想定外というものを考えておかないとね。今回は王妃との戦いだから、色々と多い目に用意していたんだよ」

「…王妃との戦いに、野宿セットが必要だなんて思いつくか、普通…。まあ助かったけど」


 カイゼルは、誇らしげなアンリに呆れる。だが、すぐに暗い顔をすると、言いにくそうに口を開いた。


「後…テスの事だけど…」

 カイゼルは、どう言ったら良いものかと口をもごつかせた。


「大丈夫、分かってるから」

 何でもないことのようにセシルは言うと、カイゼルの背からひょいと降りた。そして、一行の前へと進み出ると、空を見上げて立ち止まった。



「オレ、頑張るから」

 セシルは空に手のひらをかざす。桃色を帯びた高い青空は、明日の晴天を予感させた。


「だから、ちゃんと見てろよ」

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