21③-②:不幸のおかげで、出会えたもの
『大丈夫。セシル、お前だけは死んではいないよ』
「…っ」
白い空間に響いた声に、その場にいた3人は、はっと顔を上げた。
『私がここへ呼んだのだよ。今までの侘びを言いたくて』
セシルが振り向いた先には、先程までいなかったはずの、女がいた。水色の瞳に、銀色の長い髪を高く結った女性。以前、一度テスを消滅させた女性だった。
「…ナギさん、でしたっけ」
セシルは、恐る恐る話しかけた。
『ええ、私はナギ。この世界とは別の世界―異世界の神だった者。そして、今はこの世界の神、イゼルダの妻』
女性―ナギは、にこりとセシルとテスに微笑んだ。
そして―頭を深々と下げた。
『…テス、今まで苦労をかけた。前の世界で私が到らなかったせいで、お前を苦痛や不幸から救うことができなかった。私の無力さのせいで、お前は怨霊となって2000年もの間、絶望を抱えたまま悶え苦しませる羽目になった。…セシル、お前にも苦労をかけた。お前を苦しめるテスの存在に気づきつつも、私はテスに非情になりきれなかった。そのせいで、お前は危うく消えるところだった。本当に、すまなかった…』
「「……」」
セシルとテスは、頭を下げ続けるナギをしばらくじっと見ていた。しかし、やがて2人は顔を見合わせると、ふっと笑ってナギを見たのだった。
「もういいよ。前の世界でも、お前は俺の事をずっと救おうとしてくれていたんだろう?だけど、状況がそれを許さなかっただけだ。お前のせいじゃない」
「そうそう。それにオレだって、こいつの前世の
『……』
ナギは2人の返答に、驚いたかのように顔を上げた。神様の間の抜けたその顔に、セシルとテスは、もう一度顔を見合わせると、くすくすと笑いあった。
『……』
ナギは、そんな2人をただただあっけにとられた心地で見ていたが、やがてふっと小さく笑った。2人の言葉に、なんだか今までずっとのしかかっていた心の重荷が取れた気分になり、我知らず笑っていたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます