21②-⑪:また会える日まで
―どおおおおん!!!
ナギ山が赤と青が入り混じる炎を噴き、大地が震える。それは則ち、テスの命が尽きたことを示していた。
「…テス…」
高く高く上がっていく火柱と噴煙を見ながら、アンリはぼろぼろと涙を流した。
たった数ヶ月の付き合いの友達だった。
だけど、彼の存在は自身にとって、とても大きなものだった。
彼がいなかったら、あの雪の日、自身は死んでいた。
彼がいなかったら、ホリアンサのあの絶望の日、自身はやるべきことをやり遂げることはできなかった。
彼がいなかったら、リトミナの真実など、突拍子もないことを知ることはなかった。
彼がいなかったら、自身はかつての親友と仲直りなどできなかった。
「テス…!」
アンリは、地面に膝をついて泣いた。レスターは、そんなアンリを慰める言葉を何も思いつけず、ただただ暗い顔で見ていた。
だが、そうこうしているうちに、噴煙がこちらへと迫ってきていた。
「…アンリさん、ここから避難しよう」
「…嫌だ。ここにいます。レスターさん達だけで行ってください」
「駄目だ。これ以上ここにいるのは危険だ」
レスターは、「さあ」とアンリに手を差し出す。しかしアンリは、駄々をこねる子供の用に、首を横に振る。
「僕はずっとここにいる!最後までテスの傍に!逃げたかったら勝手に逃げればいい!」
「……」
そんな様子のアンリに、レスターはどうしたものかと思う。彼をおいて逃げるのは、とてもできない。
それに、ロイとアンリはまだ目覚めていない。自身は足を怪我している上に、気絶しているセシルを背負わなければいけない。カイゼルに大の男を2人も背負わせることになる。
「…じゃあ、そのままそこにいろよ。そして死ねよ」
その時、カイゼルがアンリに言い放った。レスターは『何もそこまできつく言わなくても』と思うが、カイゼルは憮然としたまま言葉を続ける。
「そうして死んで、テスに会えよ。…きっとあいつは盛大に呆れるぜ。それどころか、お前の事を罵倒するかもな。『お前らの未来を守ってやったのに、なんで死ぬんだ馬鹿野郎』って」
「……」
アンリは涙で濡れた目を、カイゼルに向けた。カイゼルはその目を見つめ返し、続ける。
「死にたいのなら死ね。だけど、それはあいつの思いを一番無駄にすることだと、あいつが一番落胆することだと知ったうえでな。…残されたお前の役目は、あいつが守った世界で懸命に生きることだ。そして、あいつの出来なかった事、やりたかった事を代わりにしてやらなきゃいけない。そして、その事を、いつかあいつに会う時の土産話にしてやらなきゃならない」
「…」
「その役目を全うする気がないのなら、ここにいて死ね。テスに二度と顔向けができない…二度と会えない覚悟でな」
「…二度と会えない…」
アンリはカイゼルの言葉を呟き、うつむく。
「…そんなの嫌だ…」
アンリはかすれた声で言った。
「なら、立て。立って生きるんだ。どんなに辛くても、寂しくても」
「…うん」
アンリは、袖で涙を拭うと立ち上がり、顔を上げてナギ山を見た。
そして、心の中で誓う。彼が以前の人生でできなかった事を、自身の人生で全部してあげるのだと。
誰かの命を、懸命に救う事。
大切な友人を、守り抜く事。
愛した誰かと、共に生きる事。
そして、皆と共に、腹の底から笑い合う事。
全部全部、自身の人生でやりきるのだ。そして、自身が人生を終えた時に、彼に全部話してやるのだ。
きっと彼は笑ってくれるだろう。
たまには、呆れてくれるかもしれない。悲しい出来事には、きっと慰めてくれるだろう。
だから、その日まで待ってて。
「…テス、またね」
アンリは、ナギ山を目に焼き付けるかのように見た後、背を向けた。
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