19-⑩:要するに身も心も男。

―数日後



 カイゼルは一端リトミナへと帰り、レスター達もまた一端サーベルンに帰っている。各々、団長達や、国王に事情を説明するためだった。


 一方セシルは、アンリと共にホリアンサで、この間の騒動で怪我をした人々の救護活動を続けていた。そして、テスはと言うと、救護活動をしたかったという事もあるが、レスターにアンリの監視役を押し付けられて…と言うよりセシルのために仕方なくそのお役目を申し出て、ホリアンサに残っていた。


 と言うのは、レスターが、救護活動のためにホリアンサに残ろうとするセシルを、無理やりサーベルンに連れて帰ろうとするからであった。

 レスターは、セシルをアンリの傍に置いておくのが嫌だったらしい。「残る」「連れて帰る」とのセシル達夫婦の応酬を見ていられなくなったテスは、自身がアンリを監視しておくからセシルの希望を聞いてくれるようにと申し出たのだ。だから、テスは、カイゼルをリトミナに魔法で送り届けた後、とんぼ返りでホリアンサに帰ってきていた。



「…にしても、お前になんか、アンリが惚れる訳ないだろうに。10歳近く年が離れているんだから」

 瓦礫だらけの病院の中を片付けながら、テスは面倒くさそうに言う。


「ああ、と言いたいところだが、お前が言うと説得力がなくなるな。10歳も年下の女に惚れた男が」

 ホウキで床をしゃっしゃっと掃きながら、セシルが言う。


「……そうだったな」

 セシルの言葉に、テスは反論できない。だから、素直に頷くしかない。


「そう言えば、アンリはどこへ行った?さっきから見かけていないけれど」

 都合が悪くなったテスは、元々自分から言いだしておきながら、話を別の方向に逸らそうと話題をかえた。


「あいつなら、マナと一緒に向うのテントで患者を診ているよ。…あいつら、仲いいよな。引っ付けばいいのに」

 セシルは今までの2人の様子を思い出しながら、言う。歳も近いし、お互いに独身だから丁度いいと思うのだが。


「確かに。だが、仕事仲間として気が合っているだけで、それ以外はお互いに興味なさそうだから無理だろうな」

 テスは瓦礫をまとめて浮かせ、その場に居ながら玄関から外へと運び出していく。


「確かに。あいつら仕事に関してのこと以外は、ほとんど話さないからな。それに性格が合うかと言えば、ムリだな。アンリはなんていうか仕事以外に関してはおっとり真面目で、マナは仕事以外に関してはハチャメチャだもんな。プライベートでは、合いそうな部分が全くない」

 セシルは腕組みをして、壁に寄りかかる。


 すると、テスは「仕事しろ」と小石をセシルのおでこに投げた。セシルは額をさすりつつ、「はいはい」と再びホウキで床を掃きはじめる。


「…それにさ、マナのやつ、結婚とか男欲しいとかいっている割に、根は男に興味なさそうだもんな。世間がぎゃあぎゃあ言うから仕方なく、合わせて喚いている部分が多いような気がする。心は、女というよりも男なのかな。体も女というよりは男だしな。介助のためって必要以上に鍛えすぎて腹筋バキバキだし。要するに身も心も男ってことだな。あれじゃあ、嫁の貰い手があっても新婚初夜に男がしっぽ巻いて逃げ出すぜ」

「だ~れが、男ですってえ~?」

「…げ」

 セシルは恐る恐る振り返る。するとそこには、ドン引きするアンリを隣に、ぺきぽきと指を鳴らすマナがいた。


「うふふ。随分ぼろくそに言ってくれたわねえ、セシル」

 にこにこと笑っているが、額には幾本もの青筋が浮かんでいる。


「…お、オレ、何か言ったっけなあ…」

 セシルは必死になってとぼけようとしているが、声が明らかに震えていた。

 そんなセシルにご愁傷様と思いながら、テスは知らん顔をして、瓦礫の運び出しを続行する。


「ちょっと外に出てきてもらいましょうかあ?セシルう?」

「……」

 ぞぞぞと怖気に後ずさるセシル。アンリに目で助けを求めると、アンリは申し訳なさそうに目を逸らした。この薄情者め。


「さあ、可愛がってあげるわ、セシル?」

「ごめん!すまん!オレが悪かった!」

 セシルはホウキを捨て、土下座した。しかし、マナはそんなセシルをひょいと小脇に抱え、外へと連れ出す。


「た~す~け~て~!!」

 セシルは足をばたつかせながら、テスとアンリの2人に助けを求めるが、2人とも見て見ぬふりをしていた。やがて痛そうな『ごつ』という音と「ぎゃっ」と言う音がして、2人はセシルがげんこつをくらった事を知る。



「…ははは、仲が良いなあ…」

「アンリ、そう見えたなら、お前は重度の近視だよ…」

「そうかもね…」

 アンリはテスと苦笑いを交わすと、セシルの捨てたホウキを拾い、床を吐き始めた。


「そう言えば、テス。最近よく銃を分解しているけれど、何か改造でもしているのかい?」

 ふと、アンリは思い出したかのようにテスに聞いた。このところ、休憩の合間に、テスが銃ばかり弄っているのを見ていたからだ。テスは、「ああ」と頭をかきながら、アンリを向く。


「ちょっと、王妃の本体を倒せそうな武器を思いついて。その製作と実験をしているんだ」

「…へえ、すごいじゃないか」

 アンリは驚いたかのように、テスを見る。


「まあ、王妃の天敵が無事見つかればこんなのはいらないんだが、念のために転ばぬ先の杖を作っておこうと思ってな。…でも、あんまり期待はするなよ。理論的には王妃に対抗できる武器だが、本人で検証実験できない以上、効果は無いかもしれないから」

 テスは、アンリに変な期待を持たせないよう、軽くあしらうように言った。

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