18-⑩:水色の矢

「……」


 地上にいるセシルたちは、呆然とその光景を見ていた。化け物たちも天から降り注ぎ始めた明るい光に、あるものはおびえて頭を抱え、あるものは天に向かって遠吠えを上げる。


「…え」

 セシルは驚いて見る。魔方陣の下側に、幾つもの白い球体と青白い球体が出現し始めた。

 それらは急速に膨らむと、何かを一斉に吐き出し始めた。それは白と水色の矢だった。


 最初はぽつりぽつりと振ってきたその矢は、やがてどしゃ降りの雨のように地上に降り注ぐ。化け物たちは体中にその矢を受け、絶叫しながら身もだえ、次々と倒れていく。そして、痙攣したかと思うと、その皮膚が割け始め、そこから溶けた肉があふれ出しドロドロと溶けていく。



「…危ない!」

「…レスター!」

 セシルの元にも降ってきたその矢から、レスターが身を挺して守る。だが、


「あれ、痛くない…」

 レスターは不思議そうに自分の胸を見る。胸に刺さった白いそれは、全く痛くなかった。当然血など出るはずもない。


 そういっている間にも、その場にいる皆にも、ぷすぷすと矢が体に突き刺さっていくが、誰も何も痛く感じなかった。それどころか、矢は刺さると輝きを増し、それから数秒立つと、白い煙となって消えていった。

 ふと見れば、地面に突き刺さっている矢も同じく、輝きを増した後、白い煙となって消えていっている。どうやら、化け物にしか効果の無い矢のようだった。



「…」

 レスターはセシルを抱き寄せ、空を見上げる。矢が絶えず降り注いでくる空は青白く光っていて視界が悪く、あの女たちがどこにいるのかもわからない。


 だけど、レスターはその空を見ながら思った。あの女が何者か、何が起こっているのかは全く理解できないが、これでひとまずは窮地を抜け出せたのだろう。


「……?」

 ふと、セシルの元に降ってくる矢が、白い色の矢ばかりであることに、レスターは気づいた。水色の矢も降ってくるには降ってきているのだが、セシルに落ちる直前で、カーブを描いて、避けていくのだ。


 何故だろう、と思っていると、矢の勢いが弱まり始めた。どしゃ降りが普通の雨の勢いになり、やがて矢がぽつりぽつりと残り雨のように落ちる頃には、化け物の姿はもうどこにもなかった。

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