18-⑪:挨拶は礼儀
「僕たち…助かったんですか?」
「そう、みたいだな…」
警戒している相手であるアンリの言葉に、そうであることも忘れてレスターは頷く。
「…あっ、セシル!」
セシルはレスターの腕の中から、駆けだした。爆心地の方へと。
―まさか、でもそんなことがある訳が
瓦礫に躓き何度も転びながらも、セシルは、上空高くに見える女の姿へ向かって駆けた。
やがて、女がゆっくりと下降を始めた。こちらに向かってくるその姿をめがけて、セシルは懸命に駆けた。相手の顔が認識できるぐらいに近づいた時、セシルは駆けながら叫んだ。
「…お前は、お前は!」
「馬鹿だな。別にお前が慌てて来ずとも、俺はお前に会いに行くつもりだった」
女は傷だらけのセシルに呆れながら、魔方陣から飛び降り、セシルの前に着地する。
「ぎゃあ!」
それと同時に重力魔法の魔方陣が消されたので、カイゼルは瓦礫の山に頭から突き刺さったが、女はそれをまったく気にせず、セシルに右手を出した。
「こうして会うのは初めてだな。俺はテス・クリスタ。初めまして、と一応言っておくよ」
「こらあ!テス!てめえ、わざとだろ!」
カイゼルが瓦礫から頭を抜いてわめくが、セシルはそれを全く気にせず、目の前の女―テスを見る。
「…どうして、お前が居るんだ?だって、お前、消えたんじゃ…。それにその体」
セシルは肩で息をしながら、テスの体を頭からつま先まで見た。銀髪に水色の目。顔も自身によく似た…そこで、セシルはあっと小さく声を漏らす。
「お前、なんでしっぽなんて生えてるんだ…?」
銀色の毛におおわれた尻尾が、下履きのお尻の所からにょろりと生えていた。「ああ、これか」とテスは、何という事も無いように、しっぽを振る。
「色々と聞きたいことがあるだろうけれど、それは後で説明してやる。今はとにかく、まずは挨拶をしろ。それが礼儀ってものだ」
「……」
セシルは戸惑ったが、テスにさっさとしろと強い目で睨まれたので、おずおずと手を出した。そして、戸惑いがちに言う。
「セシル・フィランツィル=リートンです。よろしく…」
すると、テスはセシルの手を、ぐっと引き寄せるようにして握った。セシルは驚きに、びくっと体を震わせた。それを、テスは可笑しそうに見る。
「てめえ!セシルと挨拶する前に、何か俺に言う事あるだろ…がは!」
そして、そんなテスの肩をつかもうとしたカイゼルは、その肩越しに握手していない方の手でアッパーを食らわされたのだった。
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