飽き性

三文士

第1話 某ラノベのアニメ化取り消し

またぞろ。飽きもせずエッセイ連載を始はじめる。


からこじらせたオッさんの文章丸出しなのだが、これでも若い人に迎合しようと努力している。その証拠に今回のテーマはイマドキである。


※2018年6月現在の話である。


例のごとくなろうから転生ものライトノベルのアニメ化が決定したのだが突如、声優たちが次々と降板していった。最終的にはアニメ化は中止になり、現在は書籍の販売も危ぶまれている。


原因は原作者のTwitterにおける過去数年前のツイートがヘイトスピーチにあたるものだったから。だそうだ。


中止が発表されてからは炎上の原因となった過去ツイートもそうだが「そもそもその作品の内容が差別的だった」と批判を受けている。


私が調べた限りではツイートは確かにヘイトスピーチにあたるものだった。しかし作品の方は不適切や差別的な内容なのかと聞かれれば、必ずしもそうではないという意見もある。


主人公は大戦の英雄で剣の達人。おまけに刀匠。94歳で没したはずだったが、異世界に転生。その知識と経験を活かし大活躍するお話。だそうだ(ざっくりとしか調べてないので、ファンの方はすみません)


一見すると何が問題なのか分からないほどよくある設定だ。昨今の転生ファンタジーの王道の香りを感じる。


しかしの人々が言うにはこの主人公が大戦で切り捨てた数多の敵国人が、自分たちの国を指しているのではないかとのことなのだ。


実際読んだ方の感想によれば、そう断定することは非常に難しいレベル。だそうだ。


Twitterでは出身と思しき方々が数々の興味深い呟きをされていた。もともとかの国でもこのラノベは炎上していたそうなのだが、少なくとも日本では彼らの呟きによってその火は拡大した。私はそう思っている。


いっぽうで原作を読み込んだファンの方々から「原作のいったいどこに特定の国で惨殺した描写があるのか。この作品のどこが問題なのか」といった声が次々に上がりだした。


批判していた方々はこれに対し「確かに明記はしてないけどこんな書かれ方したらそう思うのが普通だ。現に我々の国ではみなそう受け取っている」というような意見が目立ち、最終的に「そもそも、作者がヘイトスピーチ的なツイートをしてたのは事実なんだから作品にだってそういう思想が込められているはずだ。やっぱり問題だ」ということになった。


そういうことで現在も論争は続いているが原作者の方は謝罪をしアニメ化は中止。もうこれは諸々のことを認めたも同然である。


ヘイトツイートは実際にあったので動かぬ事実だが、作品に彼らのいう好ましくない描写があったかはなんとも言えないらしい。


どうあれなろうで人気を博し書籍化、そしてアニメ化までこぎつけた作品である。一定の人々の支持は得ていたことになる。


その作品が葬り去られようとしている。



今回の事態を見て、こんなツイートをしてる人がいた。


「殺人犯が本を出すときは遺族の反対を押し切って出版したのに、今回はあっさり差し止め、アニメ化中止までするんだな」


例えがいささか極端ではあるが、私はあながち的外れな意見ではないと思った。


その後にこう答えた人もいた。


「遺族は金にならないが、は金を持っているからね。仕方ないね」


やはりこれも的外れとは言いがたい。


金、もしくは数の力であると私は思っている。つまりは数で自分たちの意見を押し通したわけだ。かの国がもつアニメ市場は絶対に無視できない。それは仕方ないことだ。しかし悲しい。



大前提として、ヘイトスピーチは許さない行為だ。差別的な発言を日常的にする人を私は決して快くは思わない。


だが数年前のツイートとこの作品を結びつけるのはいささか強引ではないのかとも思う。作品に罪はないとまでは言わないが、海外でならまだしも日本でのアニメ化取り消しや書籍回収が本当正しい処置だったのか。やはり疑問に思う。


声優まで決まっていたアニメ化を取り消すとはよほどのことだ。そのよほどに、本当にこのツイートが当てはまるのか。私は頭を悩ませる。作者が発言を取り消し、謝罪。それで終わりでではないのか。ツイートと作品は別の話ではないのか。


アニメ化中止の背景にはの人と思しき人物から声優への殺害予告があったという噂もある。声優の事務所などが配慮してこういう対処になったのだろうか。だとすれば確かに賢明である。


しかし殺害予告の犯人が捕まったというニュースはない。ヘイトツイートが断罪されて、殺害予告は野放しな上に要求があっさり受け入れられるのか。やってることの民度は同じくらい低いと思うが。



様々な思惑や事情が重なり今回の騒動が起きた。これにより一番被害を受けたのはお金をかけて企画をした会社と仕事が決まって喜んでいた声優。そしてアニメ化を楽しみにしていたファンだろう。



よく小説のコンテストの参加規約にはよくこんな事が書かれている。


※特定の宗教や国を批判や侮蔑する表現や描写がないこと。


何故こんな一文があるのか疑問だったがこんな時の為だったのかと合点がいった。出版社も余計なリスクを背負いたくないのだろう。



私は特定の思想は持ち合わせていない。だが当然に好き嫌いはある。時には露骨に嫌悪を感じることもある。そしてそれをあらわにすることも。だが感情をむき出しにする場所は考えねばなるまい。SNSは愚痴を吐いたり自分の思想を語る場ではなく、立派な公共の場所であると覚えておくべきだ。


悲しいのはひとつの作品が潰されてしまったこと。私は今後あの作品を目にすることはないと思うが、創作をしていく身として今回の件は胸が痛む。表現の自由などない。そう面と向かって言われたも同然なのだ。


我々はこの先、誰かの顔色を伺いながら創作していかないといけないのだろうか。仮に人々から支持を得る大作を執筆できたとしても、誰かの意にそぐわない、もしくは誰かを不快にさせる描写をしてしいるという理由で作品を潰されてしまうのだろうか。受け取り方は十人十色なのだから、それでは良い作品は生まれないのではないだろうか。


今回のこの事件はそんな不自由な時代の幕開けを予兆するものかもしれない。


だとすれば、表現や創作の世界の未来は暗く冷たいものになってしまう。それはあまりにも辛い。


そうならない為に我々はもっと皮肉やユーモアを勉強し、比喩表現を巧みに操って自分の想いをなんでもない言葉の節々に隠さなければいけない。風刺こそが我々の最大の武器なのだ。


だがそれもまた、なんだか悲しい時代である。



いちおう続く

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