第八章 僕らは宇宙《そら》で未来を語る

28.宇宙怪獣の正体

(ソラ……)


 舞子は自分の目が涙でかすんでいることに気がつく。

 右手で涙を拭おうとして、宇宙服のヘルメットに邪魔された。


 舞子の機体は、ケン・トに引っ張られるまま戦場から離脱しようとしていた。

 ケン・トが舞子に言う。


『アイツはお前を助けたいんだ』

「分かってるわよ、そんなこと」


 ソラの気持ちなんて、ケン・トにいわれるまでもない。

 ソラと一緒に宇宙を旅してきたのは舞子なのだ。


『だから、最後まで見届けないと』


 涙で視界をにじませている場合ではない。

 舞子には義務があるのだ。

 ソラの戦いを最後まで見守る義務が。


 今、ソラの機体はソードを抜いて巨大ヒガンテへと向かっていた。


『あいつ……まさか』

「そのまさかよ。ソードで斬るつもりなんだわ」


 ミサイルは効かない。自爆しても倒せない。

 そうなれば残る武器はそれしかない。


『無茶だろ……それは……』

「でも、アイツはそういう無茶をやるのよ」


 ソラと初めて出会ったあの日。

 バトル・エスパーダの決勝戦。

 舞子の罠にかかり、巨大な岩を前にしたソラは、ソードで岩を切り裂く道を選んだ。


『確かに他に方法はないかもしれないけどさぁ……これはゲームじゃないんだぞ』


 そう、これはあの決勝戦とは違う。

 あの時は撃墜されてもバーチャルの世界だった。

 それに、相手はただの岩の塊じゃない。


『計算上は可能です。ソラさんのソードにはそれだけの強度を付加していますから』


 冷静なトモ・エの声。


『いや、計算とか、そういうことじゃなくてだな……』

「それでも、信じるしかできないでしょう?」


 いまさら舞子やケン・トが戦場に戻ってもできることはない。

 舞子のミサイルはもうほとんど残っていないし、ケン・トの機体もかなりガタが来ているのだ。


 そして、通信越しにソラの雄叫びが響く。


『うおぉぉぉぉぉ!!』


(ソラ)


 舞子は祈った。

 神様も仏様も信じていないが。

 それでも祈った。

 ソラ自身の力に。


 ---------------


(でっかいなぁ)


 エスパーダもソラの身長の10倍はあろうかという巨体だが、それを基準にしても目の前の巨大ヒガンテは圧倒的な質量を持っていた。


 幸いなのは、他のヒガンテと違って、今のところこちらにエネルギー攻撃や腕のような者を伸ばしてくる様子はないということだ。

 その理由は分からない。

 あるいは、他のヒガンテとは性質が違うものなのかもしれない。

 だとしても、このまま地球に進ませていい相手とは思えないが。

 

(さあ、いくかっ!!)


 決意を固め、ソラはソードを構えて巨大ヒガンテに突っ込む。


「うおぉぉぉぉぉ!!」


 自然と、雄叫びの声がでていた。

 ソラのソードが巨大ヒガンテの岩のような皮膚――あるいは外装を切り裂いていく。


(いけるっ!)


 少なくともミサイルと違って、通用している。


(このまま貫いてやるっ!!)


 ソラはヒガンテを切り裂きながら進む。


「いっけぇぇぇぇぇ!!」


 実際のところ、エスパーダの操縦に肉体的な力強さはひつようとしない。

 レバーを強く押し込んだからといって、エスパーダの出力が上がるなんていう原始的な操縦系統ではないのだ。

 エスパーダの操作というのは、もっと繊細で複雑なものである。


 それでも。

 ソラは自然と体に力が入っていた。


 モニターにソードの破損率が表示される。

 現状はせいぜい2%くらいだが、すでに2%ともいえた。

 破損箇所が少しでもあれば、そこはもろくなり、もろい場所からいつか割れてしまう。

 ソラの機体には予備のソードが2本あるが、はたして持替える余裕があるかどうか。


(たのむ、もってくれ)


 願いながら、ソラはさらに突き進んだ。


 と。


 とつぜん手応えが消える。


(なんだ?)


 まだ、反対側に突き抜けるには早すぎる。

 なぜ、手応えがなくなる!?


(これは……空洞!?)


 巨大ヒガンテの内部に、広い空間が広がっていた。


(どうなっている? ヒガンテの胃かなにかに出た?)


 だが。

 そこで、ソラが見たものは!


(違う、これは……そうか、ヒガンテって、つまりは……)


 ソラはようやく理解した。

 自分たちが戦っていたのかを。


(そうか、まあ、そうだよな)


 ソラの目の前には、の姿があったのだった。

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