18.緊急離脱

 死を覚悟していたソラ。

 その機体がいきなり解放された。


(え?)


 戸惑いつつも、周囲を見回す。


(今の声……)


 聞き覚えがある。

 あの時、レランパゴを奪っていった男――ケン・ト。


 モニターで確認する。

 そこに見えたのは、確かにあのケン・トの黒いロボットだった。


「え、え、え?」


 戸惑いの声を上げるソラ。


『バカヤロウ、まだ動けるなら、とっとと逃げろ!!』


 ケン・トに言われ、ソラはモニターに表示されている自分の機体の状況を確認する。

 手足がひん曲がっているが、なんとかジェット噴射で推進力は得られそうだ。

 ソラは舞子の待つ方へ移動しようとする。

 と、舞子がこちらに向かって飛んできた。


『捕まって!!』


 舞子の機体が伸ばした右手に、かろうじて動く左手で捕まるソラ。


『2人とも、すぐに戻ってください』


 トモ・エの声が聞こえる。


「で、でも……」


 ソラはケン・トの方を見ながら躊躇する。


『ガキが気にしているんじゃねー、とっとと逃げろ』


 ケン・トの叫び声が聞こえる。


「う、うん、その、ごめんなさい」


 ソラはそう言いながら、舞子に手を引かれて船へと向かった。


 ---------------


(さーて、こいつ、どうしてくれるか)


 ケン・トは眼下のバケモノを見下ろした。


 バケモノは両手を再構成しはじめる。


(自己再生まで出来るのかよ。とんでもないな、ガチで)


 バケモノの手がケン・トの機体を掴もうと伸びてくる。

 ケン・トはそれを躱しながら考える。


(エネルギー波で攻撃……いや……)


 実のところ、ケン・トはこのバケモノの正体に気づきつつあった。

 イスラ星を滅ぼしたというヒガンテ、それがこいつなのではないか。

 だとしたら、こいつの餌はレランパゴのエネルギー。

 ケン・トの機体のエネルギーもまたレランパゴだ。


(エネルギー波は吸収されるかもしれねぇな)


 まさかとは思うが、攻撃を仕掛けて相手のエネルギーにされたのでは馬鹿みたいである。

 とはいえ、ソラがやったようにソードで斬りかかるのも無謀だろう。


(しかたねぇ。分の悪い賭けは好きじゃねぇんだが……)


 ケン・トはバケモノに向かって機体を突き進める。

 バケモノはこれ幸いとケン・トの機体を掴もうとし――


(やっぱりそう来るよな)


 ギリギリのところで、緊急離脱。


「こいつをくらいな」


 同時にケン・トは手元の金色のボタンを押す。


 ケン・トの機体に装着された全実弾兵器が一斉に火を噴く。

 ミサイルを発射したことによる反作用も利用し、離脱スピードを上げる。


 一方、実弾はバケモノに突き進む。

 距離が近すぎて、バケモノは避けられない。


 ほぼ、全弾命中。


 ――爆散。


 バケモノはバラバラになっていた。


「ふー。なんとかなったか」


 ケン・トは額に浮かんだ冷や汗を腕で拭こうとし、宇宙服のヘルメットにはばまれた。


『ケン・ト、すぐに戻るギャー、連中の本隊がくるギャー』


 クーギャの声がする。


「ああ、わかっている」


 ケン・トの機体のレーダーも、すでにそれをとらえていた。

 先ほどのバケモノとよく似た反応、その数、100体以上。

 しかも、一つ一つがが今倒したバケモノの数倍から数10倍の大きさだ。


「確かに、こりゃあ、とっとと離脱する一手だな」


 ケン・トは自分の船に向かって飛んだ。


 ---------------


『ソラ、大丈夫?』


 船にたどり着き、格納庫に機体を収めると、舞子から通信が入った。


「まあ、生きているみたい。ははは」


 ソラはそう言うのがやっとだった。


『ごめんなさい、私……』


 舞子がなにかを言いかけたとき、別の通信が入る。


『お話中申し訳ありません。格納庫の扉を閉め次第緊急ワープに入ります。機体から下りたら2人ともすぐに操縦室に来てください』


 かなり切迫したトモ・エの声だった。


「了解」


 ソラは、格納庫の扉が閉まって格納庫内に空気が充満したことを確認した後、機体から下りた。


 ---------------


 宇宙服のまま、ソラと舞子は操縦室に急いだ。


「ソラ、ごめんなさい。私、恐くて……」


 ソラの横で廊下を走る舞子は、酷く落ち込んでいる様子だった。


「ま、大丈夫だって、この通り生きてるし」


 ソラは努めて明るく言ったが、舞子の顔は晴れなかった。

 実際、自分の笑顔も無理があったのだろう。先ほどまで感じていた死の恐怖は、今もソラの中で消えていない。

 操縦室に着くと、そこにはトモ・エが待っていた。


「トモ・エ、状況は?」

「すでにワープ航法に入っていますので、モニターできません」


 ソラの言葉にトモ・エは淡々と応えた。


「ケン・ト……さんは?」


 助けてもらったこともあり、一応『さん』付けでたずねる。


「あちらの船も私たちとほぼ同時に緊急ワープに入ったようです。方位も同じですから、ワープ航法を抜けた時点で通信可能になるかと」

「それまでどのくらい?」

「緊急ワープはそれほど長時間できません。まもなく抜けます。彼の宇宙船もおそらく同じでしょう」


 などと言っていると。

 モニターに宇宙が映し出された。

 ワープ航法を抜けたのだ。


『よ、坊ちゃん、嬢ちゃん、無事かい?』


 通信越しにケン・トの声が割り込んできた。

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