僕らはロボットで宇宙《そら》を駆ける

七草裕也

プロローグ

1.いきなり決勝戦!!

 広い室内展示場に司会者の声が響く。


『ついにこの時が訪れました! 第一回、バトル・エスパーダ全国大会決勝戦!』


 観客達が決勝に進出した少年少女に盛大な拍手を送る。

 これからここで行なわれるのは、新世代ロボットバトルゲーム、バトル・エスパーダの全国大会決勝戦だ。


『なみいる腕自慢の大人たちを蹴散らして決勝に進出したのは、なーんと、どちらも中学生! それでは紹介しましょう。決勝進出者一人目は中学1年、もりはらソラくん』


 その瞬間、ソラにスポットライトが浴びせられる。

 普段、あまりこういう場面で注目されることがないソラは、顔を赤らめた。


『そして、もう一人の決勝進出者はかざまいちゃん、中学3年生!』


 今度はソラの隣に立つ少女にスポットライトが当たる。彼女はソラとは違い、恥ずかしがる様子もなく優雅に一礼してみせた。


『それでは、二人にお話を聞いてみましょう』


 司会者はそう言うとソラの方に近づいてきた。


『ソラくんはどうしてバトル・エスパーダをやりはじめたのかな?』

「えっと、なんとなく楽しそうだったから……それに、ロボットを操縦してみたかったし……」

『今日はご両親やお友達は応援にきているのかな?』


 ソラは言葉につまった。

 両親や友達――そんなものはいない。いないものが応援に来るわけもない。


「いいえ、ここには一人できたんで」


 結局、ソラは無難にそう答えた。

 次に、司会者は舞子の方へと向かった。


『舞子ちゃんはどうしてバトル・エスパーダを始めたのかな? 正直、女の子はあまりプレーしないゲームのような気がするけど』


 そう言った司会者を舞子はキッと睨みつける。


「女は黙って人形遊びでもしていろと?」

『い、いや、そこまでは言っていないけど』


 司会者はタジタジになりながら言った。


「私がバトル・エスパーダを始めたのは、自分を最大限に表現する方法だと思ったからよ」

『……自分を最大限に表現?』


 司会者は少し困惑気味の声を上げた。ソラにだって、よく意味がわからない。


『舞子ちゃんは応援誰か応援に来てくれているのかな?』

「特には。ここにはウチの運転手に連れてきてもらったけど、彼も別に応援はしていないでしょうね」


 舞子はそう言うと自身のロングヘアーを右手でかき上げた。


 ---------------


 バトル・エスパーダ――それは今からちょうど一年前に発表された新世代型ゲームである。家庭用ゲーム機や携帯ゲーム機ではなく、ゲームセンター専用のゲームだ。


 プレイヤーは画面上の人型兵器エスパーダ――わかりやすく言えばロボットを動かし、敵を倒したり、ミッションをクリアーしたりする。ネットワークを使って全国のプレイヤーと対戦することも可能だ。

 スマートフォンかタブレット端末を繋げば、自らがカスタマイズしたロボットを動かすこともできる。


 バトル・エスパーダはその戦闘シミュレーションとしての出来の良さから一気に人気ゲームになった。


 もっとも、難易度が高いので、少しやって諦めてしまう者も多い。撃墜されなければ1時間以上も100円で遊べる一方で、初心者だとものの20秒でゲームオーバーも珍しくないのだ。


 いまでは全国各地のゲームセンターにバトル・エスパーダのコントロールルームがある。

 コントロールルームには上下左右前後、全方位にモニターが付いている。


 バトル・エスパーダで戦う舞台フィールドは主に宇宙なので、足元からも、天井からも敵が襲ってくるのだ。その為、前方の敵だけを見ていては簡単に撃墜されてしまう。


 そして、発表からちょうど一年後の今日、第一回バトル・エスパーダ全国大会決勝戦が行われていた。


 ---------------


 ソラと舞子がそれぞれのコントロールルームに入るよう司会者にうながされた。

 ソラが入ろうとすると、舞子がソラに話しかけてきた。


「あなた、これまでオリジナル機体を使っていないけど、そんなんでよくここまでやってこれたわね」


 オリジナル機体をカスタマイズするにはタブレットかスマートフォンが必要だが、ソラはそのどちらも持っていない。


 舞子はずっと自分用にカスタマイズしたオリジナル機体を使ってプレーしていた。オリジナル機体が必ずしも強いというわけではないが、自分の好みの能力を付加できる。さらに、元から用意されている機体と違って、相手に自分がどんな武器を持っているか秘密にできるなど、有利な点は多い。


 ソラはなんと答えようか迷った末に、こう言った。


「別に、オリジナル機体じゃないと勝てないわけじゃないから」


 それはソラの強がりだったのだが、舞子には嫌味に聞こえたらしい。

 目尻を寄せ、舞子はソラを睨んだ。


「ふん、余裕ね。いいわ、叩き潰してあげる」


(きっと、この子にはスマホやタブレットを買ってもらえない子もいるって想像できないんだろうな。運転手とか言っていたから、きっとお金持ちの家の子なんだろうし)


 ソラはそんなことを考えつつも、コントロールルームへと足を踏み入れた。


 ---------------


 決勝戦のルールは簡単。一対一で戦い、先に撃墜されたほうが負けだ。

 舞台フィールドはスペースデブリ340。


 宇宙空間ではあるがそこら中に隕石や岩が飛び交う危険なフィールドだ。

 このバトル・エスパーダでは石や岩にぶつかってもダメージを受ける。直撃すればそれだけで撃墜扱いだ。そのリアルさが緊張感を生む一方で初心者殺しの要素でもあった。


 エスパーダを操作するには専用のコントローラーを使う。右手と左手で別々に一つずつ。あと足元にもペダルがある。うまく使うには慣れが必要だ。


『それでは決勝、レディー・ゴー!』


 司会者の言葉とともにソラの周りには宇宙空間が映し出された。


 ---------------


(さて、どこにいる?)


 全方位に気を配りながら、ソラは宇宙空間の中を進んでいた。

 舞子の操る機体を見つけ出さなければ戦闘にならない。


 実のところ、このステージではこうして進むだけでも素人には難しい。

 四方八方の石や岩、宇宙ゴミを避けながら、さらに舞子の機体を探すのだから神経を使う。


(どうする? 使うか?)


 ソラにはある能力がある。バトル・エスパーダのゲーム上の能力ではない。生まれながらに持っている超常能力だ。

 彼はそれを『時間制止』と名づけている。


 何か衝撃的なことが起きた時、時間がゆっくり感じられるというが、その現象を意識して起こすことができるのだ。彼が決勝戦まで進めたのも、『時間制止』のおかげだった。


 もっとも、それにはかなりの精神的消耗があり、連続で30秒、1日5回程度が限度だと経験上知っている。


 今日は準決勝までに、すでに3回使ってしまった。

 だから、まだ使えない。戦闘に入るまでは。


 ソラは石や岩を避けながら、必死に舞子の機体を探した。こちらが先に発見できればそれだけ有利になる。


 ――と。


 眼下から光線がソラの機体へ襲いかかった。

 光線といっても、本当の光の線ではない。光そのものなら見えた時にはすでにあたっているのだから。


 これはエスパーダの武器が出すエネルギー波である。


(先に見つかった!?)


 ソラは迷わず『時間制止』能力を発動した。

 途端、周りの動きがゆっくりに感じられる。

 もちろん、感じられるだけで、実際にはスピードは遅くなっていない。


 光線の発射元方向をにらみ、その先にいる舞子のピンク色の機体をも視認する。

 コントローラーを操作し、まずは光線を避けようとする。


『時間制止』能力を発動しても、別にソラの手足が早く動くようになるわけではない。あくまでも感じ方がゆっくりになるだけだ。自分自身の手足の動きがもどかしく感じられる。


 それでも光線を避けることに成功するソラ。

 続けて舞子の機体へと迫る。

 彼女の機体は遠距離用の武器をたくさん積んでいるようだが、ソラの選んだ機体は接近戦用だ。


 舞子は慌てて距離を取ろうと後ろに下がりだした。

 ここで『時間制止』は限界だった。

 だが、追いかけっこをするだけならば問題ない。

 コントローラーを操り、相手の機体へと迫る。


 相手の機体は武器をカスタマイズしすぎていて、スピードが遅い。

 ソラは機体の腰部分に付けられたソードを抜き取り迫る。

 どうやら、向こうも覚悟を決めたらしい。ソードを抜いた。


(でも!)


 接近戦ならスピードもパワーもこちらが上だ。

 幾度かのつばぜり合い。


(いける!)


 全体的にソラが押している。

 だが。

 舞子の機体がソラの機体を蹴飛ばした。機体が後ろに押される。ダメージはないが、バランスを崩す。


(悪あがき!)


 体勢を整えようとした次の瞬間。

 ソラは致命的なミスに気がついた。

 背後から巨大な岩が迫っていた。

 戦闘に気を取られすぎて見落としていたのだ。


(しまった!!)


 偶然なのか、それとも舞子が狙っていたのかはわからない。

 即座に『時間制止』を再発動する。


(この岩をよけられるか?)


 答えはノーだった。今更よけるには距離が近すぎる。光線で破壊しようにも、ソラの機体は遠距離攻撃方法がほどんどない。ミサイルはついているが、発射するまでの時間を考えれば間に合わない。


「だったらっ!」


 ソラは気づかないうちに誰にともなく叫んでいた。

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