2.決着 そして物語の始まり
(勝った)
舞子はそう確信した。
ソラの機体設計や本人の戦い方の好みが、接近戦一辺倒であることは、決勝までの戦いを見て把握している。
接近させる前に倒したかったのだが、相手の機体の方がスピードがあった。
だから、あえて逃げるふりをしてソラに接近させ、この状況に追い込んだ。
舞子は生まれながらに『空間認識』能力を持っていた。
たとえば、ビルを一目見るだけで、屋上まで何メートル何センチ何ミリあるのかがわかってしまう。さらに、様々に動き回る群衆や車の動きを同時に把握することもできた。
この能力はバトル・エスパーダというゲームと相性が抜群だった。相手と障害物と自分との距離感、動きなどが手に取るように理解できるのだ。
もちろん、次の瞬間に相手がどう動くかまでは読めないが、相手が接近戦を仕掛けてくることはわかっているのだから、この状況を作り出すことは簡単だった。
結果、ソラの機体は巨石と激突しようとしている。
舞子はソードを腰にしまった。
――と、次の瞬間だった。
ソラの機体が岩の方へと向き直った。
(ミサイルで岩を破壊するつもり? 間に合わないわよ)
舞子は嘲りの笑みを浮かべた。
結果をみれば、それが舞子の決定的なミスであった。
ソラの機体が岩の方を向いた時、すなわち舞子の機体に背を向けた時に攻撃していれば、おそらく彼は対応できなかっただろう。だが、この時舞子は勝利を確信し、その必要性を感じていなかったのだ。
次の瞬間、ソラがしたことは舞子にとって常識外のことであった。
すなわち、ミサイルではなくソードを岩に向けたのだ。そして、ソードを振りかぶり、岩に斬りかかった。
「うそっ!?」
舞子は思わず叫んだ。
岩をソードで斬るという非常識すぎるソラの行動。
岩が真っ二つに割れていく。
同時に、ソラのソードもどんどん削れているようだ。
このゲームではリアリズムを出すためか、ソード自体もダメージを受ける。
ソードが破壊されるのが先か、岩が割れるのが先か。
舞子はなぜだか
本来なら、彼の背後から光線でもミサイルでも撃てばそれで終わっていたのに。
何故だか、彼の行動の結末が見てみたくなってしまったのだ。
――そして。
岩が割れたのとソラのソードが砕けたのはほとんど同時であった。
即座にソラの機体が舞子の機体に向き直り、拳を振り上げる
ソードはもうないが、接近して殴りかかるつもりらしい。
(くっ……いくら何でも非常識すぎるでしょっ!!)
岩をソードで割るのも非常識なら、ロボット同士のバトルで殴りかかるのも非常識だ。
運動エネルギーの関係上、ロボットが殴るということは、自分の腕部にもダメージが入るということなのだから。
舞子は混乱しながら光線を撃ち続ける。
「なんなのよ……あいつは!」
毒づく舞子。
攻撃が当たらない。
(動きが速すぎるっ!)
ここで冷静になっていれば舞子にもまだ勝機はあったかもしれない。
何しろ、ソラはソードという一番の武器を失ったのだから。
接近されても、舞子がソードを抜けば互角の戦いができただろう。
だが、混乱の極地にある舞子はソードを再装備せず、光線を打ちまくった。そのことごとくが当たらない。
――結果。
ソラの機体の拳が、舞子の機体腹部にクリーンヒットした。
自分の機体は撃墜判定。
同時にソラの機体の右腕ももげるが、腕だけならば撃墜扱いではない。
舞子は準優勝に終わった。
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画面上にゲームセットのメッセージが表示されると、ソラは安堵の溜息をついた。
『第一回、バトル・エスパーダ全国大会の優勝者は森原ソラくんです!』
司会者のその声を聞きながら、ソラはコントロールルームから外に出た。
「あんた!」
舞子が駆け寄ってくる。
「な、なに?」
「結構やるじゃない。まさか岩を斬るとはね。恐れいったわ」
「でも、風見さんもすごいよ。あの岩の動き、計算していたんでしょう?」
「まあね。あ、苗字じゃなくて名前で呼んでいいわよ。私もソラって呼ぶから」
「うん、舞子さん、ありがとう」
ソラの言葉に、舞子はフンと髪をかき上げた。
『おーっと、早くも2人の間には友情が芽生えたようだぞ。共に素晴らしい戦いを見せてくれた2人に、そしてソラくんの優勝に皆さん盛大な拍手を!』
司会者の言葉に続き、会場内に拍手が鳴り響く。
ソラはなんだかこそばゆくなって縮こまってしまった。
こうして、第一回バトル・エスパーダ全国大会はソラの優勝で幕を閉じた。
だが、ソラと舞子の本当の物語はここからはじまるのである。
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