魔女と過ごした一年間
幻影の夜桜
第一章「始まりの春」
プロローグ 魔女の秘密
放課後、とある教室。
運動場で元気に動き回る生徒達の遠い声をBGMに採用しつつ、それでいて窓からは真っ赤な夕陽が降り注ぎ、その光に的確な調節をあてて絶妙な明るさを作るカーテンは、優しい風に吹かれてヒラヒラと揺れている。
腰辺りまで伸びた、長くて見た目からサラサラした髪は、カーテンと同じく優しい風に吹かれて揺れている。
横から差してくる夕陽による赤いグラデーションも、あたかも自ら放つオーラかのように馴染ませたその後ろ姿は、なんとも一言では表現しがたい美しさを生んでいる。
まるでこの世の“美”を支配したかのような少女は窓の外を眺めていた視線を、手元にある一冊の絵本に移す。
そしてそれを少女は、誰に語りかけるわけでもなく読み始めた。
「むかしむかし、この世界には魔女が居ました」
「魔女はその魔法で自然の理を司り、自分達と動物達に恵みを与えて栄えさせてきました」
数人の女性が、晴天に恵まれ、動物達と楽しそうに過ごしている風景を描いたページをめくると、今度は一つのページに一人ずつ、向かい合うように女性が描かれた、少し雰囲気の変わったページが開かれる。
「しかし、栄えすぎました。あまりに増えすぎた魔女たちは、それぞれグループを作り、争いを始めてしまいました」
「その争いはあまりにも醜くて、とうとう神様が怒ってしまいました」
次のページは、最初のページからは想像もつかないような曇天に包まれ、雲に乗った神様に許しを乞う女性たちが描かれている。
「怒った神様は、魔女達から知識と記憶を奪ってしまいました」
「知識と記憶を奪われた魔女達は、自分が魔女であることを忘れてしまいました」
次のページは一人の女性が大きく描かれ、その身体からは明るいオーラを放っているかのようである。
「しかし、神様は一つだけチャンスを残しました」
「たった一族だけ、知識と記憶のカケラを残しました」
「その魔女は、争いの時も必死に止めようとしていました。神様は、そんな魔女に心を打たれていたのです」
「だから、いつかまた、みんなが幸せを作り、幸せになれるように」
次のページはまた最初と同じような情景が描かれている。けれど、そのページに動物の姿はない。
「魔女であることを忘れた魔女達は、みんなで協力して生きていくようになりました」
「幸せになるために」
そこまで読み終えた少女は、そっとその絵本を閉じた。
そしてそれを左手に乗せると、その本に右手をかざす。そして一言二言何かを唱えると、それは光に包まれ、どんどん小さくなっていった。
ストラップサイズにまで小さくなったそれを、ポケットから取り出したスマートフォンに取り付ける。
少女が窓の外に視線を再び移すと、外はもうすっかり暗くなってしまっていた。
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