第187話 結婚当日(3)

ボサボサだった頭も


ヘアメイクさんの腕で、なんとかしてもらい


ようやく仕度ができたのが


式が始まる5分前だった。




美咲はチャペルの控え室の前で心配そうに待っていた。


「慎吾・・」



八神は彼女の姿を見てハッとした。


「もう・・ほんっと。 逃げられたかと思った、」


美咲は胸を押さえて、心から安堵していた。




あまりに


彼女がキレイだったので。


正直


言葉が出なかった。


普段は


もうすぐ30だってのに


ギャルっぽい、きゃぴきゃぴメイクで。



こんなに大人っぽい化粧をしている彼女を初めて見た。



肩を出したデザインのドレスも


うなじから背中にかけてがすごくきれいで。



「美咲があんまりキレイだから見とれてるよ、」


呆然とする八神を朋がからかった。


「え、あっと・・遅れて、ごめん。 わけは、あとで・・」


恥ずかしくて、真正面から彼女を見れなかった。


「もう、」


美咲はニッコリ笑って、嬉しそうに彼の手をつないだ。


八神もチラっと美咲を見て微笑む。



そんな微笑ましい後姿を


美咲の父は思わずカメラのシャッターを切った。


すごく


すごく


幸せそうな笑顔で見つめあい、手をつなぐ二人。




「胸がいっぱいって感じね、」



美咲の母はそっと声をかけた。


「え・・」


父は


ちょっと膨れたようにうつむく。


「ほんと。 どうなることかと思ったけど。 こういう危なっかしいトコが慎吾かなあって思ったり。 でも、慎吾で間違いなかったでしょ?」



大きくなったなあ。


二人とも。



父は二人を見てつくづく思う。


3人兄妹の末っ子で、ただ一人の娘・美咲は


目に入れても痛くないほどかわいくて。



ずっと


心のどこかで


美咲が求めていたのは


慎吾だってこと


わかってたけど。



慎吾が本当に美咲を幸せにしてくれるのかって


心配でもあった。



だけど


あんなに幸せそうな顔を見せられちゃあ・・



父はふっと口元を緩めて微笑んだ。




「ねえ、ドレス・・どう?」


美咲は八神に言った。


「ん・・」


「んって・・それだけ?」


彼の顔を覗き込む。


「・・き・・きれいだよ・」


ボソっと言った。



「え? 聞こえな~い、」


本当は聞こえていたのだが、イジワルをして美咲は聞き返す。


「・・きれいだって!」


八神はムキになって大声を出してしまい、



「ちょっとぉ・・なに? 人前ではずかし、」


悠に背中を叩かれた。


「慎吾も似合うよ。 やっぱ、このピンクがかわいいよね~、」


とベストを指差す。


「も・・ほんっとピンクなんて恥ずかしいよ・・」


「あたしのお色直しの衣装がピンクだから。 それと合わせて~って。」


美咲は八神の襟元を直してやった。


「ウン、すっごいカワイイ!」


満足そうに微笑む。


「カワイイって・・」



ちょっと複雑なんですけど・・。



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