第150話 進んで(2)
「まあ、結婚するとさ。いろいろあるよ。 つまんないことでケンカしたり。 子供が生まれたら、子供のことで教育方針もそれぞれ思いがあるしね・・。」
玉田は少しため息をついた。
「え~? 玉田さんちでもケンカすることあるんですかあ?」
「あるよ。 そりゃ。 おれも怒ったりするし、」
彼が怒ったところを見たこともない八神は驚いた。
「へえええ。 まあ、里香ちゃんは負けん気の強い子でしたけど。」
「アカの他人が一緒に住むんだもん。 何もないほうがおかしいよ。 まあでも。 許せるのも・・夫婦なんだけどね。」
年の割りに幼い笑顔を見せて玉田は笑った。
「まあ、八神は・・彼女のことはもうわかりすぎてるだろうから。 ケンカにもならないかもしれないけどね。」
「い・・や~~。 正直、ケンカはしょっちゅうですから。 挨拶代わりみたいな?」
と言うと玉田はおかしそうに笑った。
なんとか片付け終わって、4人で食事をして戻ってきた。
南と玉田とはその店で別れた。
「あ~、つっかれた。 明日、仕事かァ。」
美咲はぐったりとした。
「おれだって仕事なのに。 もー、寝たい。 とりあえず寝具はちゃんとしといたから、」
「ほんと引越しってエネルギーいるね、」
美咲は笑った。
寝室には新しく購入したダブルベッドがどーんとあった。
八神はそれをつくづく見て、
「やっぱ・・シングルふたつ入れたほうが良かったかなあ・・」
ボソっと言った。
「え?なんで? 狭いからベッド二つは無理だって言ってたじゃん・・」
美咲は不満そうに言う。
おめーの寝相が悪いからだよっ!
八神はつっこみたかった。
気がつけば
口が開けっ放しになっている。
「ちょっと、八神! ここで寝るのはどうかと思うよ、」
昼休みにランチから戻ってきた南は八神の頭を小突いた。
「あ? おれ・・寝てました?」
自覚ゼロだった。
「寝てましたよ。 口、あけて。」
夏希も言う。
「ほんっと、も~、眠いし・・」
八神は壁にもたれた。
「も~~、新婚さんみたいなもんだしね~~。」
南がからかって彼の頭を指で小突くと、
「ほんっと! 寝かしてくんないから!」
声を大にして言った。
「ちょっと・・あからさまですよぉ・・それ。」
夏希はひとり狼狽して言った。
「ほんっと! あいつ、寝相悪いから!」
八神は思い出しても腹立たしくなった。
「はあ?」
「もう、熟睡してると腹の上に足がドンって! ほんっとびっくりして飛び起きますよ。 どんどん人を蹴落としていく感じで、おれベッドから落ちそうだし。 やっぱダブルベッドになんかするんじゃなかったっ!」
八神はどんどん頭に来てしまい二人を目の前に言った。
「寝相悪いくらい。 どうってことないやん、」
南はアホらしくなり言った。
「寝れないんですよっ!ほんと。」
「かわいそ。 なんかひとつのベッドに二人で寝るのって、ちょっとウザいですよね・・」
夏希が思わず本音を言うと、
「え? あんた、そんなん思ってたの?」
南に言われて、
「えっ、だって、狭い・・」
夏希は思ったことをつい口に出してしまうので、無邪気にそんな風に言って
「やめろ・・・想像する・・」
八神は疲れながらも笑ってしまった。
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