第143話 自然体(3)

この夜。


高宮は夏希のマンションに久しぶりに行った。


最近は忙しく、週に1度、夜会えるかどうかで・・


二人でベッドに入ってキスをして。


久々の興奮に自分を抑えようと思っても、


気持ちが逸る。


手が彼女の胸の上を這う。



そのとき


高宮の携帯が鳴った。


「電話・・」


夏希が小さな声で言う。


なんだ、こんな時間に・・



高宮はムッとして


「いいよ、」


と手を止めなかった。


「でも・・社長からかも、」



その一言でピタっと手を止めた。



しかし


「あ、高宮? おれ、八神だけど!」


怒りが頂点に達しようとしていたが、必死におさえ、


「なんなんですか・・?」


「なあ、贈与税ってどのくらいとられるの?」



・・知るか! そんなもん!!


「・・100万以上だと10%くらいじゃないですか?」


力なく答えた。


「え、100万で10%?? てことは? ええっと・・」


計算にめちゃくちゃ時間かかるし!


しかも、こんな簡単な計算!!


「10万じゃないスか? 単純計算だと・・」


もう勘弁してほしかった。


「ああ、そっかあ。けっこうデカいよなァ。 な~、なんでこんなに困ってる人間から税金ってとるの?」



小学生の質問か?


「おれ・・国税局の人間じゃないんで・・」


どっと疲れた。





それから1週間が経ち。


「で? どうなったんです?」


腹立たしいが、なんとなく気になってしまい高宮は八神に聞いてしまった。



「え?なにが?」


あんなに大騒ぎしたくせに、まったくもって関係ないような顔をする八神に腹を立てながらも、


「・・マンションのことですよ、」


と言ってみた。


「ああ、そのこと? 結局。 美咲のヤツすっげー貯金してて。 二人でお金出し合って頭金にすることにして、あと、双方の親がちょっとづつお金出してくれるってことにもなって、中古で良さそうな物件あったからそこに決めようかな~って。 何事もさ、無理は禁物だからね~。」


とサラっと言って、軽く笑った。



「あ・・そ、」



初めから


そうすりゃいいだけじゃん。


高宮はバカバカしくて怒る気にもなれなかった。




しかし


八神の金にまつわる苦悩は続く。


12月も半ばに差し掛かり。


事業部も忙しさで目が回りそうだったが。


もうすぐ出るボーナスに望みを持って


なんとか頑張ってやっていた。


それでも


そのボーナスをはたいてまで買わなくてはならないものがある。



エンゲージリング。



まだ


美咲になにひとつそれらしきものを買ってやっていない。


この前の誕生日にはかわいいピアスを買ってやって。


それだって2万もしなかった。


マンション購入で貯金をはたいてしまった今、もうボーナスを全部かけてそれを買うしかないところまできていた。


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