第135話 急展開(2)
慌てて服に着替えようとした。
半分寝ぼけていたのでズボンに足を突っ込もうとした時、バランスを崩して
「わっ!!」
たんすの角におでこをぶつけてしまった。
「いっ・・」
なにやってんだ、
おれは・・
ぶつけたオデコに手をやって階段を転がるように降りて行く。
「朋ちゃん!」
茶の間に行ったが、涼がのんびりと掃除をしていた。
「涼ちゃん、朋ちゃんは!?」
「え、今どっかに行ったけど、」
「どこに!?」
「さあ。 それよりさあ、3月の第2、取れたんだって? よかったね~。 ちょっとまだ寒いかもだけど春の陽気だろうし。」
窓ガラスを拭きながら満面の笑みで言われて、
「ち・・」
いや、ここで否定をしている場合ではないのだ!
八神は慌てて家を出た。
美咲の家までは畑をぐるっと回らないと行かれないのだが、子供のころは面倒くさくて畑の柵の隙間から入って近道をして行った。
畑の中に入ると父からものすごく怒られたのだが・・
久しぶりにその経路で行こうとして、
「いでっ!」
まず、大人になった自分の身体で柵の隙間から入るのに無理があった。
「わっ!」
Tシャツが柵にひっかかってビリっと破れた。
「あ~~、もう!」
それでも畑を通って、何とか美咲の家の裏側に出た。
美咲の部屋は裏手の二階にある。
「美咲!」
大声で呼んだ。
「おい! 美咲ってば!」
すると、美咲も寝ていたようで、
「なに・・? 朝っぱらからうるさいな・・」
ぼさぼさの頭で寝ぼけた顔で窓を開けた。
「バカ! 暢気に寝てる場合か! 大変なことになってる!」
「はあ?」
この家、いっつも玄関の鍵、あけっぱなしなんだよな。
危ないからって注意してもダメなんだよなあ。
八神はそんなことを思いながら勝手に多賀谷家に入っていく。
そして美咲の部屋に直行した。
「え? 朋ちゃんが?」
美咲は着替えながら言った。
「よっくわかんねえけど! なんだかおれたち3月の第2日曜日にその・・なんとかってホテルで式挙げることになってっぞ!」
「ああ・・昨日の話・・」
美咲は特に慌てる風でもなく髪をとかした。
「なんか勝手に決めてるんだよっ! どうしよう、」
「でもさあ、よく都合よくキャンセルなんか出たよね~。 そのカップル別れちゃったのかなあ。」
あまりに暢気な美咲に
「いいのかよ!」
八神は突っ込んだ。
「え、どっちでもいいよ、別に・・」
面倒くさそうに返されて、
「よくねえって! なんで、本人たちの意思を無視して・・」
鏡越しに言うと、美咲はくるっと八神に振り向いて、
「昨日言ったことウソだったの?」
怖い顔になってそう言った。
「え?」
「扶養家族になってくれ!って言ったでしょ。」
「・・う、ウソじゃないよ・・。でも、3月つったら、もう11月だぞ? 4ヶ月もねえじゃん!!」
「なんか・・このままズルズルしそう、」
美咲はため息をついた。
「え?」
「あたしたち、一生結婚しないかもね、」
気の抜けたことを言われて、
「そんなこと・・」
いちおう否定しようとしたが、
「じゃあ、いつするの?」
キッと睨まれた。
「慎吾がいっちょまえになるの待ってたら40くらいになっちゃいそう。 いっくらなんでもそれはね~。あたしも子供はほしいし・・」
美咲から具体的なことを言われたのは初めてだったので、少し引いてしまった。
「ま、日にちだけ決まってればさあ。 あとは時間がなんとかしてくれるって!」
美咲は豪快に笑って八神の背中を叩いた。
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