第117話 すれ違い(2)

「おれだって・・イライラすることもありますよ、」


八神はもう悲しくなってきた。


「また斯波っちに怒られたの?」


「いえ、」


八神もそのピロシキを食べ始めた。



おれがこんなに


心配してるのに



美咲のことを思う。


連絡もよこさないし。


なんかおれから行くのもしゃくに障るし。


二度と来るな!って言われたんだから、


真尋はそんな八神の様子を気にしつつ、ピロシキを頬張った。




一方


美咲も



なによ。


ほったらかし?


子供ができたかもしれないって思ってるくせに!


慎吾は元々物事を深く考えるのをしないタチだし。


それにしても!


家の前でまちぶせするとか!


誠意を見せなさいよ!



ふつふつと怒りが沸きあがる。




志藤家に集まることになっていた日曜日まであと3日。


「なあ、志藤ちゃんトコ何時ごろ来れる? 美咲ちゃんと一緒に来るやろ?」


南は八神に言った。


「はあ?」


とたんに険しい顔になる。


「知りませんよ、」


プイっとそっぽを向いた。


「え、まさかまだ仲直りしてへんの?」


南は驚いた。


「別に・・向こうからなんも言ってこないし。」


「って、心配ちゃうの?」


「心配ですよ! だからメールしたり電話したりしてるのに、全く無視だし!」


美咲が妊娠していなかったことを八神に言いたかったが、彼女からきつく止められているので、言えずに・・


「もう、八神が誠意を見せればいいんだからさあ、」


「いやです! いつも美咲はそうやって怒って、おれが謝ってくるのを待っているんですから!」



「もし、ほんまに妊娠してたらどうすんの?」


南は彼の気持ちを確かめるように言った。



八神の手がピタっと止まる。



それは


気になるけど。



少しは、泣いたりとか・・どうしようって悩んでくれればいいのに。


おれなんか頼りにならないって思ってるのかよ・・


美咲のヤツ



そのまま寡黙になってしまった。


南は意地を張り合う二人を心配し、昼休み美咲にメールをしてみた。



『まだ仲直りしてないの? 八神もなんだか意固地になっちゃって。 妊娠してなかったことは言ってないけど、心配はしてるよ。 ここは美咲ちゃんが大人になって許してやったら?』


すぐに返事が返って来た。


『慎吾には誠意が見えません。 もうメールも電話も来なくなったし。気が弱いくせに意地はって。 あたしのことよりも自分のことのほうが心配なんです。 南さんにも心配をかけて申し訳ないですが、もう放っておいて下さい。美咲』



こっちも


そうとうなもんやなあ・・



南はため息をついた。




「え~? 出かけちゃったんですかあ?」


八神は真尋から今日はちゃんと弾くから家まで来て欲しいと言われたのに彼がいなかったのでがっくりした。


「ちょっとそこまで行って来るって・・すぐ戻ると思うんですけど。 すみません、」


絵梨沙に謝られると


「ちょっとならすぐ戻ってくるでしょう・・待っててもいいですか?」


怒るわけにもいかず・・


「もちろん。 よかったらお昼も食べて行ってください、」



そこに竜生がやって来て、


「あ! しんご! ねえ、これであそぼ。」


クラフトでできた飛行機を持ってきた。


「お、これは飛びそうだな。 庭でやろっか、」


「うん!」


とりあえず竜生の相手をすることにした。




「すっげー! とぶ~!」


竜生は大喜びだった。


「おれがとばす~、」


「こうやってやるんだぞ、」


「わかってる~!」


と飛ばすと、庭の一番高い木に引っかかってしまった。


「あ~あ。 もう適当に飛ばすから・・」


「えー! とって~!」


竜生は八神の袖を引っ張った。


「って、めちゃくちゃ高いトコなんだけど、」


「しんご、きにのぼれる? Like a monkey!」


竜生はサルの真似をして笑った。


「木かあ・・。 昔はけっこう登れたけどな~。」



確かにちょっと頑張ればいけそう・・



そう思ったのが間違いだった・・



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る