第108話 ふたりの距離(3)


「そうかあ。」


南はいきさつを聞いてしみじみしていた。


「前みたく慎吾のことあたしにふりむかせようだとか、つなぎとめようだとかひっしにならなくても、となりにいてくれるので。 今のままで十分、幸せですから。」


「愛っていろんなカタチがあるなあ。 つくづくそう思うわ、」


南はため息をついた。


「だから慎吾はあんまり騒がれたくないみたいです。 まあ、静かに見ていてやってください。」


美咲の大人の発言に


「ま、八神やから。 しゃあないなァ。」


南は笑ってしまった。



おせっかいはせずに


とりあえず


見守るか・・


南は親気分になってそう思っていた。




それでも


「あれ? めずらしく早いやん、」


八神が6時ごろ帰り支度をしているので、声をかけた。


「ああ、ちょっと企画の永井さんに頼まれちゃって。 合コンに行くことになって。」


と普通に言われた。


「はあ? 合コン? なんで、」


南は驚いた。


「え、なんでって・・急にさっきになって人数足りないから来てって。 今日は三友海上火災のOLでレベル高いとか言うもんで。」


あまりに平然として言う八神に


「あんた・・美咲ちゃんと結婚の約束したんちゃうのん?」


自分の記憶違いかと思って聞いてしまった。


「えっ・・なんでソレ知ってるんですか?」


八神はぎょっとした。


「美咲ちゃんから聞き出したもん・・」


「あいつ! ほんっとにおしゃべりだなっ! おれのことはいつもしゃべりすぎだとか文句言うくせに、」


ブツブツ言い出したので、



「で、なんで今さら合コンすんねん。」


南は話を元に戻した。


南の言葉に八神は


「え、だって合コンですよ? 合同コンパ! いいじゃないですか。」


まるで


当然といわんばかりの答えをした。



その主張に南は目をぱちくりさせて、


「は・・?」


「別に彼女を探しに行くわけじゃないし。 女の子と楽しく飲んだりするだけでしょ?」


「普通は男女の出会いの場やろ・・」


「それは人それぞれじゃないですか。 永井さんだってちゃんと彼女いるし。」


「美咲ちゃんがそれ知ったら、」


「え、今日は合コン行くからってさっきメールしましたよ。」


とさらに言われて、



「へっ?」



南は驚いた。



「でも、別に、あっそう。って感じでしたけど。 美咲だって会社の人とか得意先の男の人と飲みに行ったりしょっちゅうですから。」


「・・・」


南は黙ってしまった。


「別に、うまくいってないとかそんなんじゃなくて。 もちろん結婚するのは美咲だけど。 今すぐってわけじゃないし。別に他の女の子とつきあうとか二股かけるとかでもないし。 美咲もウソみたくやきもちとかも妬かなくなったし。 まあ・・お互い安心してるっていうか。 結局、どんな道辿ってもゴールは一緒だし。  実際、前より会ってないかも。 ここんとこ1週間以上会ってないかな・・」


「なにそれ、」


南は全く理解に苦しんだ。


「人生は1回きりなんですから。 楽しまないと。」


八神はお気楽にアハハと笑った。



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