第101話 約束(3)

「え・・」


美咲はふと顔を上げた。


「ばあちゃんに言ったこと。 ウソじゃない。」


「慎吾、」


「正直、今は結婚とか考えられない。 自分もハンパだし。 だけどここに来て色々考えて。 この先美咲以外の女を好きになって、付き合って、結婚するって。 それが考えられないなって。 ここだって、すっごく嫌で出て行ってしまったけど、やっぱり帰るトコもここしかないし。 もう、未来をどう想像しても美咲がいるような気がして、」


八神の言葉に美咲は信じられないように


ぼーっとして。



「消去法、」


とつぶやいた。


「え?」


「それじゃあ、消去法じゃない。 他に誰もいないから、あたし、みたいな・・」


美咲は目を潤ませて、鼻をすすった。



「え、そうじゃないよ。 ていうか、まあ今の言い方だとそうなっちゃうけどさ、」


「も~」


美咲は手で涙を拭いた。


「ばあちゃんに育てられただろ? おれたち。 洋服のたたみ方も、食器の片しかたも、掃除のしかたも。 こうして大人になってみて、全部変わってなくて。 ばあちゃんは・・逝ってしまう。 間違いなく。 なんかこのまんま思い出とかも全部持って行っちゃいそうで。 すっごく寂しくて。 もー、たまらなくなって。 いまだにフラフラしてるおれのこと心配してて、美咲と一緒になったらどんなに嬉しいかって思ってる。 ばあちゃんを喜ばせようとしたんじゃなくって。 結婚は恋愛とは違う。 ずうっとずうっと家族になって一緒に暮らして行かないといけないし。 もー・・美咲しかいないよ。 おれ、」



八神のほうが泣きそうな声になってもう一度美咲を抱きしめた。


「慎吾・・」


美咲はポロポロと涙をこぼした。


「あたしのこと・・すき?」


背中に回した手にぎゅっと力を入れた。



「好きだよ・・燃えるような気持ちとは、正直、違うけど。 ずうっと、ずうっと好きでいられる気持ち・・」


彼の正直すぎる言葉にクスっと笑ってしまって、


「もう、」


美咲は自分からキスをした。



そして


からませるように握った手に彼のぬくもりが


幸せの温かさのように


じんわりと感じていた。





とても


我慢ができなくて


そのまま近くのラブホに入って


抱き合った。


苦しそうな息遣いと


吐息の中で



「み、美咲・・」


八神は彼女に体を預けながら耳元で囁いた。


「え・・?」


「おれ、ほんっと・・美咲と・・シたかった」


泣きそうな声でそう言って、両手を指を絡ませるようにぎゅっと掴んだ。



「慎吾・・」


「姉弟とかじゃなくて・・女としての・・美咲と・・シたかった・・」



頬に


汗が光る。



それをそっと撫でながら



「ホント・・?」



「うん・・」



初めてだ。


いつもいつも彼女を抱く時は


後ろめたくて。


だけど今は


心から彼女を抱きたい。



愛してるから・・


はっきりと


カタチとして彼女への愛がわかった。


八神は彼女の体を抱え込むように抱きしめた。




不思議な気持ちだ


あんなにあんなに


こだわっていた気持ちが


すうっと


ウソの様に消えていき。


なんでもっとこうやって素直な気持ちになれなかったのか。


やっぱり


ばあちゃんのおかげだ。



美咲への気持ちが


溢れて


止まらなくなった。


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