第98話 迷い(3)
「で・・あの二人。 どうにかなってんの?」
朋はボソっという。
「さあ、」
母は平然と味噌汁をすすった。
「だって。 涼ちゃんが行ったときさあ・・一緒に住んでたっぽいんでしょ?」
「しーっ! あの二人にはこの話をみんなに言った事は内緒なんだから、」
涼は二階を気にした。
「なんか信じられないけど~。 あの二人がって。」
朋はさらにそう言う。
「責任取らなくていいのかなあ、お母さん。」
涼も少し心配そうに母に言う。
「そんなこと、あたしに言われても。」
母は迷惑そうに言った。
「でも。 多賀谷家も慎吾ならぜんっぜんOKなんでしょ?」
雄二が言う。
「もうほっとけ。 当人同士の問題なんだから。周りでやいやい言ったって。」
父の一言で噂話は終了になったが。
「だからさあ、そういう穴の開いたTシャツとか着るなって言ってんじゃん!」
「あいたヤツをわざわざ着てるんじゃないの! 今気づいたんだからしょうがねえだろっ!」
二階から二人の騒がしい声が聞こえてくる。
「もう、朝っぱらからうるさいね~。 んじゃ、いってきま~す。」
朋が慌しく出かける支度をした。
「んじゃ、おれも、」
雄二や父も席を立つ。
「ほら、あんたたち。 今日はプールでしょ。もう時間だよ。 送ってくから、」
涼は小学生の息子と娘たちに声をかけて、どたばたと食卓を後にした。
「クモの子を散らすように・・いなくなったな。」
八神は何となく妙な雰囲気を察した。
「今、ばあちゃんに会える?」
美咲は八神の母に言った。
「さっき様子を見に行ったら寝てたから。 お昼くらいにもう一度いらっしゃいよ。 とりあえず家にも行ってさ、」
「ウン、わかった。 ごちそうさまでした。」
美咲は笑顔で一度帰って行った。
「あー、ハラ減った・・」
八神がようやく食卓につくと、
「こんな時間に起きてきて。あたしも仕事があるんだからさ、」
母はブツブツ文句を言いながらも仕度をしてくれた。
ゴハンを口に運びながら
「ねえ、」
気になっていたことを母に聞いてみた。
「ん?」
「ばあちゃんは・・おれと美咲に一緒になって欲しいのかな。」
出かける仕度をしている母を見た。
「は?」
何を突然、という顔をされた後、
「ばあちゃん、なんか言ってたの?」
母は一度持った荷物をまた置いた。
「そうなれば・・嬉しいみたいなこと・・ちょこっと、」
ボソボソと言った。
「まあ、真意はわかんないけど。 ほんとウチはじいちゃんの代から多賀谷家とは親戚よりも濃いつきあいだし。お父さん同士は同い年で仲いいし。 家族ぐるみでつきあってて、冗談でいつか子供たちが誰か結婚して一緒になってくれて、本当の親戚になったらねえって。 じいちゃんもばあちゃんも。 お姉ちゃんたちは、そんな大人のバカな話には乗ってこなかったけどさ。」
おかしそうに笑う。
八神はそんな母にムッとして、
「じゃあ、そのバカな話のターゲットになったのがおれたちかよ、」
ジロっと睨んだ。
「まあね、ばあちゃんは特にアンタたちのことかわいがってたし。 自分が育てた子たちがね、一緒になって家庭を作ってくれたらって・・思っちゃたりしたんじゃない?」
茶碗を持つ手が止まった。
「まあ。 あたしは何も口出ししないけど? 最後はあんたたちの気持ち次第というか。」
母は急いでまた仕度をして、
「じゃ、洗い物だけしてってね。」
と出かけてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます