第91話 変化の時間(2)

「あっついから、あんまくっつくなよ・・」


いつものように狭いベッドで抱き合うように寝た。


「おっこっちゃうもん、」


美咲は八神に抱きついた。


「おまえなあ・・おれを生殺しにする気?」


思わず起き上がって言う。


「泊まれって言ったじゃん、」


美咲はふふんと笑ってちょっとイジワルに言った。


「今から帰るか?」


八神も負けずにそう言った。



美咲は、はあっとため息をついて、


「いいよ、じゃあ。 あたし床に寝るから。」


とベッドを出ると、


「バカ。 いくら夏だからって床なんかに寝たら冷えるだろ・・しかも・・そういうときに、」



恥ずかしそうに言う八神に美咲はまたも


胸がきゅ~~~んとしてしまい。


「も~~、慎吾ってば、」


思わずぎゅうっと抱きついた。


「だから・・それは暑いんだよ・・」




そんなころ


「え? ばあちゃんが?」


八神は出勤前の忙しい時間だったので服を着ながら母からの電話を受けた。


「そうなの。 なんかほんっと弱っちゃって。 もう入院もしたくないって言うし。お医者さんもこの夏を越せるかどうかって、」


朝からテンションが下がってしまった。


「あんたも忙しいでしょうけど、ちょっと帰って来れない? なんかね、涼たちにも『慎吾は?』って一日一回は必ず聞くって。 あんたが東京に行ってることもわかんなくなっちゃったんじゃないかって、」



ばあちゃんが・・


なんだかものすごく里心がついてしまい。


胸が痛くなってしまった。




「え? そんなん帰ってあげたほうがいいって。 ほら、夏休みの時期やしさあ。 何日か休みとって、」


南に事情を話すとそう言ってくれた。


「なんか忙しい時に申し訳ないんですけど・・ほんっと年なもんで、いつどうなるかわかんないみたいなことオフクロに言われちゃって、」


「おばあちゃんて八神の親代わりみたいなもんやって言うてたやんか、」


「はあ。 オヤジとオフクロ、ずっと農園が忙しかったんで。 おれが生まれて2年後くらいの時は特に。 だから、もう三食もばあちゃんに食わせてもらって、保育園も送り迎えとか。あと、習い事なんかも。 美咲と一緒に・・」


「美咲ちゃんにも言ったの?」


「まだ、ですけど。」


「それなら美咲ちゃんにとっても大事なおばあちゃんやんか。二人で行ってくれば?」


「ありがとう、ございます。」


八神は南に丁寧に頭を下げた。




「ああ、いいよ。 今のところたいした仕事もないし。 おまえもずっと真尋についてあちこち大変だったし。」


斯波にも話しに行った。



「なんなら明日からでも行って来れば?」


「明日から?」


「今週も暇だし。 ばあちゃんていくつくらい?」


「えっと・・86かな?」


「おれもばあちゃんに育てられたようなもんだったし。 そのばあちゃんは80くらいで突然逝っちゃって。 心臓発作で。 おれが大学2年の時だったけど、あっという間に。 ウチの親が離婚してからはずっとばあちゃんと住んでたからさ。 もうびっくりするやら。 成人はしてたけど、まあショックだったし、」


吸っていたタバコを灰皿に押し付けた。


斯波が自分から自らのことを話すのを初めて聞いた。


「ほんと年寄りはいつどうなるかわかんねえし。 会いたがってるんじゃないの? 行ってやれよ、」


彼のぶっきらぼうだが優しい言葉に、ジンとした。


「ありがとうございます、」


八神は丁寧に頭を下げた。




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