第90話 変化の時間(1)

おれは別に彼女を見つけようとか欲しいとか思ってないけど


美咲にももちろんそういう話があるのも当然で


おれがハッキリしなかったら


あいつが愛想をつかして


新しい男に走ったりして・・


と想像しないこともない。



でも


安心してるわけじゃないけど


だからって


んじゃ、おれたちつきあおう!!


って張り切ることも


したくない。



どうせおれは


優柔不断で


情けない男だよ・・




「なんか、痩せたんじゃない?」


美咲は久しぶりに会った八神に開口一番そう言った。


「ま・・過酷だからな。」


「ね! 見て! この前南さんと買い物行って買っちゃった。」


美咲は耳に光るピアスを見せた。


「まった・・無駄遣いして・・」


「ムダ遣いじゃないよ。 ボーナスでなんも買ってなかったし。」


美咲は八神の部屋のテレビを勝手につけて勝手に選局し始める。


「あ! 野球! どうなってるのか見たい、」


八神がリモコンを取り上げようとすると、


「え~! お笑い~!」


「おまえ人んち来て勝手に自分の見たいもん見てんじゃねえよっ!」


「いいじゃん、別に~」


「ったく1ヶ月ぶりに戻ってきたっつーのに。おれは好きなテレビも見れないのかよ~。」


と膨れた。


長い出張から戻ると


必ず彼女がここにやってくる。



そして


一緒に飯を食って。


お決まりのように


彼女を抱く。



それが当たり前のようになっていた。




しかし、この日はちょこっとテレビを見ただけで、


「じゃ、帰るね。」


美咲は帰り支度を始めた。


「え・・」


ちょっと意外そうに彼女を見た。


「おやすみ、」


美咲はニッコリ笑って出て行こうとする。



「み、美咲、」


八神は何となく彼女の腕を掴んでしまった。


しかし



シたいから


なんて


とっても言えずにうつむいていると



美咲は


「ゴメン。 今日・・生理始まっちゃって、」


八神の気持ちを先回りするようにそう言った。


「え・・あ・・」


かあっと赤面してしまった。



生理・・


そうだよな


当然、あるよな・・



「・・だから、帰る。」


そんなこと


言わないでくれよ



ものすごく切なくなった。


八神は美咲の腕を掴んだ手にぎゅっと力を入れた。



「・・慎吾?」


何も言わずに美咲を見つめる。


「泊まれよ、」


ポツリと言った。


「え・・でも、」


戸惑う美咲に


「別に。 なんもしないから、」


恥ずかしそうに目を逸らして言った。




その言葉が


すごく


すごく


嬉しくて。



「いいの・・?」


美咲は確かめるように言ってしまった。


「いいよ、別に。」



『別に』


なんてつけてしまった。


あまりに気恥ずかしくて。



本当に


体だけが目当てじゃなくて。


今は美咲にいて欲しいって


心からそう思った。


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