第85話 動揺(2)

八神はようやく事態が飲み込めてきて、今の自分の状態を把握して気が動転する。


パンイチで寝てたし!


ここ・・


美咲の部屋だし!!



「あっ・・あのっ!!」


もういったい何を言ったらいいのか。


それさえもわからない。


「もう、脱ぎっぱなしだよ? スーツしわくちゃ。 ちゃんとハンガーにかけておかないと。」


美咲の母は普通に八神が脱いだスーツをハンガーに掛けた。


「ったく、掃除もしてないみいだね~。 窓開けるよ!」


もうズカズカ入っていて窓を全開にした。


「ちょ、ちょっと!」


自分の格好を気にして八神は慌ててその辺にあった自分のシャツで体を隠す。



そして


母の後ろに背後霊のように立つ美咲と目を合わせて


この空気をどうするべきか


考えてしまった。




結局。


この『状態』について


美咲の母は一言も言及することなく


普通に二人と一緒に軽い朝食を食べて行った。




「これ、おいしいね。 慎吾が作ったの?」


「うん・・BLTサンド、」


「BL? なにそれ、」


「ベーコン、レタス、トマトサンド・・・」


「ああ、そうか。 こうやって焼いたパンにサンドすると美味しいよね、」



むしろ


機嫌がよかった。



お母さん


何考えてんだろ・・


美咲はそんな母の顔色を一生懸命伺ってしまった。


「あ、いけない。 もう行かなくちゃ。 友達と待ち合わせしてるから。 今日はね、ホテルに一泊するんだ~。 東京なんかほんっと久しぶり。 六本木ヒルズにも行ってみようかって。」


母はルンルンしながら、出かける仕度をしはじめた。


「あ、・・お母さん、」


美咲は何を言っていいのかわからなかったが、とりあえず話しかけた。


「ほんと、一人暮らしって大変でしょ? 美咲なんか今までずっと何もしないで甘えてたから、その大変さが身にしみるよ。 でも、お父さんに啖呵切って出てきたんだから。 ちゃんとやっていかないとね。」


母はそう言ってニッコリ笑った。


「う・・うん、」


「慎吾も。 面倒な子だけどよろしくね。 東京での一人暮らしはあんたのが長いんだから、」


八神はちょっとドキっとした。



「うん・・」



結局、母がこの『状態』を見て


どう思ったか


わからぬままとなり・・



「・・いいのかな、このままで。」


「うん、」


美咲の母が慌しくここを出て行ったあと、八神はボソっと言った。


「カンペキ、バレたよな、」


「たぶん・・」


美咲も気まずそうに頷いた。



今度こそ


今度こそ!



カンペキに・・バレてしまったぁぁぁ~!



八神は頭をかきむしった。


この前は涼ちゃんに口止めしたものの、今回は美咲のかあちゃんだし、もうごまかすことなんか絶対にできないし!!


こ、


このまま美咲のかあちゃんが向こうに帰ったら


おれと美咲の結婚式の話まで出るんじゃねーの??


そんなんなったら!


おしまいじゃん!!



「慎吾?」


パニくる八神に美咲は顔を覗き込んだ。


「なんか、怖くて何も言えないよ・・おれ、」


非常に落ち込んだ・・


元々


両方の家族に何だか


申し訳ないような


めちゃくちゃ恥ずかしいような。


美咲と


そういう関係にあるってことを


もみ消したい原因はそこにあったのに。



それを、その元に


バレちゃったなんて!



ヤ・・


ヤダ!!


絶対に、ヤダ!


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