第84話 動揺(1)

ワインが美味しくて、いい気持ちになってきた。


「ほんと、うまいな。 このワイン・・」


「お父さんの自信作みたいだよ。 前のヤツ、リニューアルしたんだって。」


「眠くなってきた・・」


テーブルに頭をコテっとくっつけた。


「泊まってく?」


美咲は八神の頭を撫でた。


「ん~~~~、」




なし崩しな関係は


ほんっとに


嫌なんだけど。


フツーに


帰るのめんどくなっちゃったな


明日休みだし・・


八神はぼーっとする頭でそう考えた。




美咲は夢の中で


インターホンが


ガンガン鳴る音が


どんどん大きく聞こえてくるのに、ようやく目を開けた。



え?


インターホン?


鳴ってる?



むくっと起き上がり、ゆうべ裸で眠ってしまっていたのでその辺にあった部屋着を慌てて取って着た。


八神は横でまだぐうぐうと気持ち良さそうに寝ている。



「はいはい・・」


ひとり言を言いながらインターホンの受話器を取った。



「もー! さっさと出なさいよ!」


「は・・?」



そのモニターに映ったのは


紛れもなく


母だった・・



お母さん!?



「早く開けて!」


イラつくように言われて反射的に施錠を解くボタンを押してしまった。



そして


その後、そこで眠り込んでいる八神の存在を思い出し、ハッとした。



「しっ! 慎吾!!」


と駆け寄ろうとした時、部屋にチャイムの音が鳴り響く。



「ちょっと、さっさと開けてよ。 も~~。 昨日のワインの箱の中に手紙入れたでしょ?」


母はむっとして言った。


「手紙??」


玄関をちょこっとだけ開けて何とかごまかそうとする美咲を振りほどくようにして入ってくる。



「今日、友達とお芝居を見に東京に行くって。 その前に寄るからねって。 もー、今まで寝てたの~? もう9時だよ?」


母は彼女の部屋に上がりこむ。


「・・・?」


その時


部屋の『異変』に


彼女はすばやく気づいた。



母は


周囲を見回しながら美咲の部屋に入っていく。


テーブルの上に


昨日、飲みっぱなしのワインの瓶が散乱し、


ワイングラスが


ふたつ・・


「おっ・・お母さん、」


美咲はもうオロオロしてしまい母の後を追いかける。


お構いナシに母は寝室に飛び込んだ。



ベッドで丸くなって寝る


人影を発見。


「みっ・・美咲!?」


ものすごく怖い顔で彼女を振り返った後、


「や、あ、・・あのねっ、」


美咲の言い訳も聞こうともせず、いきなりそのベッドの『主』の掛け布団をひっぺがした。



「は・・?」


八神はその衝撃で反射的に目を開けた。



その


ひっぺがした本人の美咲の母は


彼と同じように固まった。


「し、慎吾・・?」


八神はボサボサの頭でむっくりと起き上がる。


なぜ、目の前に美咲の母がいるのか?


いったい何が起こったのか?


寝ぼけた頭では到底理解ができず。


その状態のまま


数十秒経過・・・


「天気がいいんだから、ちゃんと布団も干しなさい。」


母は呆然としつつようやく口を開いた。

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