第65話 テレパシー(2)

八神は美咲のために薬やアイスノンを買ってきたりした。


この前自分が寝込んだときに彼女が看病してくれたお返しというわけではないが、やっぱり放っておけない。


苦しそうに寝息を立てる美咲の額に手を当てた。



けっこう熱あるなあ。


パチっと美咲は目を開けた。


「なに?」


と言うと、



八神の手をひっぱって、


「いっしょに、ねて。」


かすれた声でそう言った。


「え、」



またでた。


美咲の


『一緒に寝て』攻撃・・



それは『何か』を計算しているようにも思えるし、


単純に『甘え』てるだけのような気もするし。




「もー、くるしくって死にそうだから、」


美咲は八神の手を引っ張る。


「そんな簡単に死なねえよ。」


「ちょっとだけ、」



ほんっと


わがままで強引なんだからなあ。



仕方なくちょっとだけのつもりでベッドに入っていく。



美咲はふっと笑って八神に抱きついた。


体が熱い


「こんなにくっついたら熱が篭るって、」


「いいよ、そんなの・・慎吾にうつすから。」


「バカ。 また寝込ませる気かよ、」


「え、じゃあ、あたしどうやって治したらいいの?」


美咲は不満そうに言った。



ほんっと


自分勝手だよな。


コイツ。



「あたしは、慎吾が考えてること全部わかる、」


「え?」


「今、すっごく困ってることも、」



ドキッとした。



確かに。


こうして狭いベッドの中で抱き合ってることが


ものすごく耐え難いんだけど。


「あたしがピンチの時には、慎吾はちゃんと来てくれる・・。」


美咲は八神の背中に手を回す。


「え・・」


「ほんとは助けて欲しかった。 すんごい、具合悪いし。慎吾に電話したかった。 来てって、テレパシー送ってたの、」


「美咲、」


「あたしが、電話しなくっても・・慎吾、来てくれると思った。」



心がズキンと痛んだ。


真尋から美咲のことを言われるまで


正直彼女のことは忘れていた。



「いや、おれ・・」


言い訳をしようとしたが、


「そう思わせて・・今だけ、」


美咲は目を閉じてそうつぶやいた。



それも


全部、美咲にはお見通しなんだ



別に自分のテレパシーが通じたわけじゃなくて


ただの偶然で


わかりすぎて


悲しいその気持ちを


彼女が抱いていると思ったら



八神はたまらなくなって美咲を抱きしめた。



「慎吾・・」


そして熱のある彼女の唇にキスをした。


何のキス?って聞かれたら


絶対に答えられないけど。





「あ、八神です。 すみませんがちょっと午前中お休みをいただけませんか? 急で申し訳ないんですけど。 まあ、思いっきり私用なんですけど、」



翌朝、八神はちょっと言いづらそうに斯波に電話をした。


斯波は特に理由は聞いてこなかった。



美咲を何とか起こしてタクシーで病院に連れて行く。


まあ、ただの風邪だろうと言うことで、薬を貰って帰ってきた。



「じゃあ、また夜様子を見に来るから。」


八神は美咲に言った。


美咲は黙って部屋の合鍵を彼女に手渡した。



ゆうべ


何だか美咲がすごく愛しく思えて抱きしめてキスをしてしまった。



ダメだなあ・・おれって。


でも


本当にテレパシーだったのかもしれない


そんな風に思ったりもしてしまった。



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