第55話 愛なのか(2)

「わかってて。 彼女に振り回されてたの?」


真尋の問いかけに


「おれってMなんですかね? 真尋さんのことだって・・ほんっと勘弁してほしいようなこといっぱいありましたけど、嫌いじゃないかなって。」


八神は苦笑いをした。


「慎吾、」


美咲は切ない気持ちでいっぱいになる。




真尋と絵梨沙は帰って行った。


「美咲も、もういいから、」


喉がまだまだ痛くてしゃべるのもやっとだが、八神はそう言った。


彼女が夜もここに泊り込んで看病してくれているのはわかっていた。


「やっぱり・・あたしじゃなくて、彼女にいてもらいたかった?」


美咲はそっとベッドサイドに腰掛けた。


「バカ、」


八神は半分ウトウトしながらそう言った。


腫れてしまった扁桃腺が痛々しく、そこを冷たいタオルで冷やしてやる。


それが気持ちいいようで八神はまた眠り始めた。



慎吾。


あたしは


あんたのこと、少なくとも


真正面から見てるよ


ずうっと・・




「なんかスゲーよな、」


帰りの車の中で真尋は絵梨沙に言う。


「美女二人が八神を取り合ってるんだぜ? あの八神をだよ?」


「そこにひっかかってるの?」


絵梨沙は笑ってしまった。


「でも。 八神さんって、子供がそのまんま大人になったみたいな。 天真爛漫で失礼だけどカワイイって言うか。 けっこう女性にモテると思うけど、」


「でも・・最近の八神は、ぜんっぜんそうじゃなかったよなァ~。」


確かに


八神さんらしくなく


って言っちゃ悪いけど


何となく


大人っぽくて



いつも真尋と子供っぽい言い争いして、


怒ったり


笑ったり


そういうことがなかった気がする


絵梨沙もそんな風に思っていた。


「慣れないことすると体壊すんだなァ、」


真尋があまりにも暢気なことを言ったので、絵梨沙はまた笑ってしまった。



真尋は深く考えてなかったみたいだけど


あたしは


八神さんが無理をしているんじゃないかって


ちょっと思ってしまった。


今日


彼女たちの関係を知るまでは


わからなかったけど


ようやく


その


『理由』


がわかった気がした。


男と女に限らず


人間同士がつきあおうと思ったら、無理をしていたら絶対に続かない。


ちょっとした歪から


きっと


あっという間に壊れてしまうんだろう。



絵梨沙は少し心配になった。



「八神、生きてんの?」


志藤は主のいない彼のデスクを見て郵便物を整理してやりながら南に言う。


「昨日、真尋とエリちゃんがお見舞いに行ったらしいよ。」


そう返事をしたが


南は昨日の『修羅場』の一部始終を彼らから聞いてしまっていた。



まったく


ほんまに


慣れないことすると。



ため息をついた。


八神は昼間、体温計で熱を測るとようやく38℃に下がったのを確認した。


39℃以上の熱が3日も続くとさすがに大の大人でもフラフラだった。


トイレに行ってキッチンに行くと、美咲がかぼちゃのスープを作っておいてくれたらしかった。


料理はお世辞にも得意とは言えない彼女が


一生懸命作ったであろう、そのスープを一口だけ飲んだ。


まだ喉が腫れていて、食物を喉に通すのが痛い。



しかし


美咲の気持ちが篭ってるような気がして


本当に


ありがたく思えた。


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