夫の愛人は男

 今回は夫の男色に妻たちがどう反応したかについて。

 男色は一時的なものとされていたと述べましたが、もちろん全然興味ない人や、深く追求したい人もいて多様だったわけです。


『デカメロン』に、夫が男にばかり関心を向けるのを不満に思った妻が自分も若いイケメンと浮気する話があります。


***

 ペルージャにピエトロという裕福な男がいた。妻は情熱的な赤毛の女だった。しかしピエトロが男の愛人をつくって彼女を顧みないので夫婦仲は悪化した。妻は若さを無駄にしたくないので売春斡旋の老女と親しくなり、好みの美青年をたくさん紹介してもらって情事を楽しんだ。


 ある晩、ピエトロが友達の家の夕食に呼ばれた。妻は例の老女に頼んでペルージャいちばんのイケメンを家に連れてきてもらった。ところが、さあディナーというタイミングでピエトロが帰ってきて、ドアを開けてくれと呼ばわった。


 妻はとっさに鶏を入れるおりの下に青年をもぐりこませ、上から袋をかぶせた。


「ずいぶん早く帰ってきたのね」


 夫は答えた。

「いや、食べなかったんだ」


「どうして?」


 夫が話すには、彼とエルコラーノという友人、その妻の3人でテーブルについていたとき、家の中でくしゃみの音が聞こえた。エルコラーノが不審に思って調べると、物置部屋に男が隠れていた。男は妻の浮気相手だった。妻は逃げ、エルコラーノは短剣を抜いて男を追いかけまわす。叫び声で近所の人が駆けつけた。その騒ぎのせいでピエトロは食事にありつけなかったのだという。


 妻は自分と同じような賢い女がいるんだわと思ったが、口には出さず、「そういう恥知らずな女は生きたまま火に投げ込むべきね」と言った。そして青年のことを思い出し、夫には遅いからもう寝なさいよと言った。


 一方、青年は檻の中で四つん這いになっていたが、偶然そこにいた一頭のロバが格子から出ていた彼の指を踏んた。


 ギャー!


 外廊から響いてきた悲鳴にピエトロは驚き、檻を持ち上げ、痛みと恐怖に震える青年を発見した。ピエトロは彼を知っていた。というのも前から好きだったから。


 ピエトロは怖がらなくていいから何をしているのか話すように言い、青年はすべてを話した。ピエトロは手をとって彼を部屋へ連れて行き、妻の正面に腰を下ろした。


「お前はエルコラーノの細君を焼き殺せばいいと言ったじゃないか。女ってのはなんて性悪なんだ」


 恐怖で固まっていた妻は、夫がイケメンを見つけて喜んでいるのを見て気を持ち直した。


「あなたは女を焼き殺したいと思ってるんでしょうね。でも考えてみてよ、エルコラーノの奥さんは妻として扱われてるのに、私にはそれがないの。確かに、あなたのおかげで私はいい服を着てるけど、あなた私と寝なくなってどれくらいよ。私はぼろを着て裸足で歩いてもいいからベッドでちゃんと相手してもらいたいの。ピエトロ、私は他の女と同じように女なの。他の女が欲しがっているものが欲しいのよ。夫からそれを得られないから、自分で手に入れてるの。何が悪いわけ?」


 ピエトロは彼女が一晩中しゃべっても終わらないと思い、分かったから何か食べようと言った。


「この青年も私と同じように、晩ごはんがまだみたいだし」

「そうよ、食べようとした時にあなたが帰ってきたんです」


 妻は再びテーブルの準備をし、3人で楽しく食事した。その後、ピエトロは全員満足させると言ってその通りにし、青年は翌朝、彼女と亭主のどちらにより多く相手になってもらったかよく分からないまま家に帰った。

***


 愛人発覚→3Pという流れは小話でよく見かけますが、そんな都合のいいことが実際に起こりえたかというとたぶん稀で、裁判所の記録はむしろ修羅場に発展するケースが多かったことを物語っています。


 とあるパン職人の妻は夫が徒弟の少年とベッドにいる現場を目撃し、激怒してそのことを近所の女たちにぶちまけました。夫がろくに働かず、この徒弟に貢ぎまくったせいで、家は貧乏になってしまったとか。

 別の件では、ある内科医の家を一人の少年が訪れ、妻はその少年を追い返しました。夫が彼をベッドに引き込んでいるのを知っていたからでした。帰宅してそれを知った夫は妻を殴り、妻は家出してしまいました。


 また、同性とのセックスで行う行為を妻や娼婦にも強要し、訴えられる男性が後を絶ちませんでした。子作りにつながらない性行為なら男女間でもソドミーなので、フィレンツェの刑事裁判所はその種の記録で溢れています。

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