ルネサンス時代の結婚観①

 アレッサンドラ・マチンギ・ストロッツィは16世紀フィレンツェの女性です。名門アルベルティ家の血を引き、裕福な商家に生まれ、16歳で同じく有力家門のストロッツィ家に嫁ぎました。


 しかし不幸が襲います。夫がメディチ家に敵対した疑いで追放刑を下され、翌年ペストで死去。7人の子供のうち3人も相次いで死去。


 夫の死後に生まれた子を含む5人の子供を育て、結婚させるという重い課題が29歳の彼女にのしかかりました。借金返済と税金の支払いのために土地を売り、当時は不名誉とされた賃貸も行い、農地で収穫された作物を売り、家長としての全責任を果たしつつ適齢期になっていた娘の嫁ぎ先をさがします。1447年、長女の結婚話がまとまり、アレッサンドラは銀行業を営む親族のもとに身を寄せていた長男のフィリッポに手紙で知らせることにしました。


 少し長いですが、当時の結婚に対する考え方がよくわかる手紙なので引用します。



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 息子へ。神の恵みにより、カテリーナをパレンテ・パレンティの息子と結婚させることになりました。徳と力量をそなえた25歳の若者で、裕福な一人息子です。絹織物製品の工房を所有しています。パレンティ家は政治的に傑出はしていませんが、父親は市政府で議員を務めたことがあります。


 カテリーナには嫁資(持参金)1,000フィオリーノを与えます[……]。これで手を打たなかったら年内には嫁げなかったでしょう[……]。カテリーナは16歳になるのだし、これ以上は遅らせられません。もっと由緒正しい家柄に嫁がせたかったのですが、それには1,400か1,500フィオリーノは必要なので、お前にも私にも無理なのです。


 あの娘が喜んでいるかどうかはわかりません。先方の社会的地位を別にすれば、この結婚にはあまり利点がないからです。私はすべてを考慮し、大げさになりすぎないよう嫁入り支度をさせました。


 フィレンツェの他の娘のように、カテリーナもすばらしい花嫁姿になるでしょう。あちらの両親はこの結婚にたいそう満足で、なにかとあの娘を喜ばせようとしています。

 それにマルコときたら! 夫になる若者のことですけど、「君の欲しいものをなんでも言ってごらん」といつもあの娘に言うんですよ。婚約の日には絹とビロードでできた深紅の上着コッタと、お揃いのガウンが贈られてきました。どちらも彼が所有する工房の製品で、品質はフィレンツェで手に入るものでは最高です。

 彼は真珠と羽根がついた80フィオリーノの髪飾りも注文しました。その下には少なくとも60フィオリーノする二連の真珠がつきますから、あの娘は400フィオリーノ以上を身にまとって家を出ていくことになりそうです。

 そのほかにテン皮の裏地がある濃赤色のベルベットの幅広の袖と、真珠飾りのある薔薇色の長衣チョッパも結婚の贈り物として作らせています。彼は満足できないでしょう。カテリーナはすでにじゅうぶん美しいのに、もっと美しくしたいとさえ望んでいるんですから。

 まったく、あの子ほど美しい娘はフィレンツェのどこを探してもいないし、他の人から見ても美に必要なものをすべて備えています。


 神がふたりに末永い健康と恵みをお与えになりますように。

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 娘の嫁ぎ先が決まってひとまず安堵する母。未来の妻にデレる青年。幸せな結婚を予感させ、ほっこりできる手紙ですが、文面には同時に数々の戦略と妥協も見え隠れしているんです。


 というのも当時は同じ社会階層の中で結婚するのが普通でした。パレンティ家は裕福ではあるものの、家柄はストロッツィ家に比べて大きく劣ります。本当ならカテリーナの嫁ぎ先として特にふさわしいとは言えない相手でした。

 なぜアレッサンドラがこの縁談で手を打ったのか、次回に続きます。


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