第10話 ◇ウィークエンドまであと5日◇
「ふっ!・・・はっ!」
鍛錬。日々サターと共に修行をしてきたが
相手を倒すことだけを考えて動いていた気がする。
相手の隙をいかに見つけるか、
相手の行動をいかに読むか。
アニーと話をして1つわかったことがある。
「ふっ!・・・ふんっ!」
相手の隙が見えたとして、
それに撃ち込める何か。
ある程度サターと特訓するにつれ
自分の技を見つけたつもりだった。
・・・嬉しかった。
どんどん自分が力をつけていけば
守れる。街の人を。
間違って・・いない。
けど足りないものがある気がする。
『何か』はまだわからない。けど・・・
「はっ!・・・たぁあっ!!」
(はぁ・・・ふぅ・・)
日課の素振りを終え、息を整える。
焚火の位置から少し離れた、
けど何かあればすぐに駆け付けることが出来る場所。
「・・・ん?」
何か違和感を感じ火に近寄る。
「・・・魚?」
焚火の近くに串を刺した魚が焼かれていた。
(ご飯は食べちゃったし・・・これそんなに焦げてないな)
串をうってそんなに時間は経っていないようだ。
シュウは近くで寝ている2人をのぞき込む。
(ぐっすり寝てる、よね?)
ぐううう
漂う香りに鍛錬終わりの腹の虫は抑えきれなかった。
「なんかわかんないけど食べていい・・のかな?
頂いちゃおう。」
朝謝ればいいよね、と
おいしそうに焼けた肴に手を伸ばした。
(ん、美味しい。ちょうど食べ頃だったんだ)
魚の頭を上にして焼いていたので
頭が少し焦げているが、身がふわふわで・・・
(はっ!?)
気が付かなかった。
こんなに接近されていたなんて。
背後に視線を感じ咄嗟に相手に背を隠す。
しかしそばにいる2人よりも前衛に立ち、構える。
(
大きい。2メートルは超えてる。
シュウは大きく息を吸って叫ぶ。
「2人とも起きて!敵だ!」
「何!?」「ちっ!」
2人は間を開けず立ち上がり武器を構える。
「熊の異獣、か・・!」
「・・・シュウ、ここは俺たちがやる。」
レンとアニーがシュウの前に出る。
お前を庇いながらの戦闘は厳しい、
と釘を刺されてしまった。
「アニー!援護しろ!」
「わかった!」
アニーは槍の先端を地面にこすりつけながら走り、砂を持ち上げ異獣の目先を狙って放つ。
グアァァ!
視界を奪われた異獣は防衛本能と言わんばかりに爪を振り回す。
身体が大きい異獣が無差別に武器を振り下ろせば
(いくらでも隙が生まれる・・!ここだ!)
レンのピアスが光り輝く。
「くらえ!落月降斬!」
グアアアァァァァ!!
異獣の頭に降り落ちた技が命中し、異獣は頭から倒れた。
「・・・やったか。」
(すごい・・。)
会って数日でここまでの連携が出来て一発で倒すことが出来る。
シュウは自分の手の平を見つめた。
豆だらけでまだ未熟な手に見えた。
(はやく、追いつかなきゃ)
シュウは平を拳に変え、2人を見る。
だが2人は予想だにしないと言わんばかりの顔をしていた。
「シュウ!早く逃げろ!」
「こっちだ!早く!」
まさかすぎた。走馬灯を見るよりも早く後ろを振り返るが遅かった。
駆け出すのが、遅かった。
敵の顔を見るよりも先にもう1体の、人よりも長い腕が見えた。
ドゴッ!!!
鈍い音共にそのまま振り払うように投げ飛ばされ
樹に背中からダイブするように強打された。
(しまっ・・た・・・)
「「シュウ!!」」
レンとアニーが同時に叫ぶと瞬時に走り出す。
(敵とシュウが離れた!まずは敵を倒すのが先だ!)
アニーはシュウが敵のターゲットから外れたことを確認すると
一目散に異獣に切りかかる。
「くっ!浅いか!」
異獣の胴にはかすり傷程度にしか攻撃が入らなかった。
「まだだ!はあぁあ!」
アニーが飛びのくと同時にレンも背後から攻撃を入れる。
異獣の首筋に一太刀入った。
グアァ!
地面に着地と同時に「チッ」と舌打ちする。
致命傷にならなかった。
すると、
グァ・・・グアァァァァアア!!
と雄たけびを上げたのは
先ほど倒したはずの異獣だった。
(くそっ!どうする!?)
2体の異獣と戦っている間に
シュウに何かあったら・・・。
(なにか、なにか打開策は!?)
アニーも必死に戦いながら考えを巡らせる。
しかしレンと自分が2人で力を合わせても1体倒せるか。
考えることもままならず、
異獣は攻撃を仕掛けてくる。
2人はそれをかわすがこのままではシュウを助けるどころか
自分たちの身も窮地に追い込まれていく。
(万事・・休す・・・か?!)
諦めかけたその時、
どこからか声が聞こえた。
「しょうがないクマねぇ。
エレメント・ティースタイ」
突然異獣の体から炎が上がった。
グアアァァァァァ!!と叫ぶも、
炎は異獣のみを焼いた。
その情景にただ見ることしかできないレンとアニー。
何が起きているのか理解が追いつかない。
そして炎は2体の異獣を焼き尽くし、
砂埃をあげ、倒れた。
茫然と立ち尽くした2人。
ほんの数秒の静寂が流れたのち
はっ!と振り返り、アニーはシュウに駆け寄る。
「シュウ!大丈夫か?!
・・飛ばされたときに頭を打っているな、
意識は・・あるな。だが出血がひどい。
レン、すぐに手当てをしなければ!」
アニーの呼びかけにレンは答えなかった。
それどころかこちらには先ほどからずっと口を開けたままの
横顔しか見せてくれない。
普段見せないようなレンの驚き様に戸惑うアニーだが
アニーはレンの視線の先を追った。
それを目にしたアニーも目を見開いた。
「な?!」
気を失う直前、
シュウはその姿を捕らえることが出来た。
砂煙から現れた
それは、薄青い、ぬいぐるみだった。
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