にじいろいるか
Cava
第1話
この宇宙が生まれるうんと前に、君は僕に言った。
「にじいろいるかはたしかに存在するんだよ」
僕は、このところ毎晩のように言葉では言い表せないような具体性に欠ける、いわゆる夢を見たということは覚えているが、夢の内容まではすっかりと忘れているようなどこか歯がゆく、しこりのようなそんな夢ばかり見ている気がする。
おそらく、夢の内容としては一環として全て同じような夢のような気もするし、ひょっとするとまったく異なるような夢なのかもしれない。(僕は小まめに日記を書くような人間ではないので残念ながら自分の記憶だけが頼りなので毎回このような困った状況に陥ることが多い)
それだけを考えていると、だいたいは退屈であることを忘れることができたし、僕自身退屈をつぶすことにかけてはプロ意識を自覚しているほど上手いのだ。しかし、夢を連続的に見る前は、夢の内容を復元しようとすること以外にどうやって今まで退屈を相手にしてきたのかまるで思い出せない。以前の僕は、何をどうやって退屈をつぶしてきたのだろうか。
思考停止。
夢を思い出すことよりも以前の退屈の上手なつぶし方を思い出すなんてまったく馬鹿げている。今は夢を思い出すことが重要なのだ。それ以外考えていると、また次の夜が来るまで辛抱強く待たなければいけなくなってしまう。
思考が同じところをぐるぐると回っていたところに、まさしくこの時を待っていましたと言わんばかりに電話のコールが規則正しく(僕のお気に入りの久石譲Summer)鳴り出し、周期的なリズムで僕を呼んでいる。
僕は基本電話に出る際は、ワンコールで出ることはまずない。
それは自分でわざわざ設定したお気に入りの音楽をなぜ中途半端なところで切らねばならないのか理解できないからである。これは僕の一種のポリシーであるために、普通は電話コールにそのようなことを考えるだけ無駄であるが、僕にとっては大事なことの一つでもあるのでこればかりは譲れないのだ。
それから久石譲Summerのメロディが一通り流れたあとに僕は電話に出た。
「はい、もしもし」
「あなた、にじいろいるかを知っているのね」
ひと呼吸。
時計の針の音が聴こえるほどに僕の耳はクリアに研ぎ澄まされていた。
にじいろいるか Cava @aoiyocava
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